カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼初日 サンジャン・ピエ・ド・ポール → バルカルロス

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巡礼初日 サンジャン・ピエ・ド・ポール → バルカルロス

 

初日の朝は雨が降っていた。

レインウェアを着込んで巡礼事務所へ行く。

不安な上に雨に打たれて、気分もいささかブルーになった。

  

事務所で手続きをすると、クレデンシャル(巡礼証明書)を無料でくれた。

ピレネーを越えていくルートは冬期閉鎖のため、

国道沿いを行くよう事務所の人に指示された。

それからその日はえんえんと雨の中、国道を歩きに歩いた。心細かった。

 

途中、大きなスーパーマーケットのある町に出た。私は食糧を買おうと中に入った。

パンとドライフルーツと水を買い、店を出て再び歩き出すと、

青いポンチョをかぶった4人の巡礼が前を歩いているのが見えた。

濡れながら歩いていく後ろ姿に勇気づけられた。 

 

道の途上で記されている黄色い矢印に沿って歩く。

カミーノ巡礼で守ることは基本的にはそれだけだ。

矢印さえ見失わなければ、必ず次の町に出る。

 

けれど不思議なもので、迷いながら歩くと本当に迷子になった。

黄色い矢印がしばらくないときも不安になった。

この最初の日もそうだった。心配になって途中で曲がると私有地に入った。

親切なマダムが家から出てきて正しい道を教えてくれた。ありがたくて涙が出た。

 

とにかく最初は、歩きたかった道を歩いているという解放感よりも

不安のほうが大きかった。

世界も他人もこわかった。心を開くことができなかった。

それでも世界はやさしかった。

 

最初の宿泊地、バルカルロスに到着したのは13時頃。

「A」というマークが壁に出ていたから、

ここがアルベルゲ(巡礼宿)なのだろうと思った。

けれど中には誰もいない。

 

奥の部屋で塗装工事をしている男性がいた。宿の主人ではない。

私は勝手がわからず、濡れたレインウェアを乾かすこともできないでいた。

男性は私に気づくとシャワー室を指差し、自由に使えというようなことを言った。

中に入るとドミトリーベッドが並んだ部屋があった。

私は靴を脱ぎ、窓際のベッドの下にリュックを置き、シャワーを浴びた。

 

男性がいなくなった後、雨具を渇かしながらキッチンでお茶を飲んでいると、

途中でみかけた青いポンチョの4人が入ってきた。

旦那さんと奥さんと二人の男の子。韓国人だ。

彼らの名前はキムさん。

この先もたびたび出会うことになる。

でもこのときの私は、まだ彼らの名前をきくことすらできないのだ。

 

雨はますます激しく降っていた。

私は空腹だったが傘もなかったので外へ出られずにいた。

途中で買ったパンとドライフルーツをかじったら、もうやることもなくなった。

 

キッチンにあった洗濯機で洗濯をしようと思ったが、使い方がわからなかった。

あれこれ試しているとキムさんの奥さんがやって来て、英語で話しかけてくれた。

でも私は緊張して、しどろもどろになってしまった。

なんだか何もかも情けなかった。

 

管理者が在住しない宿だったので、クレデンシャルにスタンプを押してくれるのも、

宿代の10ユーロを払うのも翌日の朝だった。

巡礼宿の仕組みもよくわからず、初日の夜は雨の中、更けていった。

空腹でぐーぐーお腹が鳴った。早く眠ってしまいたかった。

窓を叩く雨の音がずっと聞こえていた。

 

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