カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼17日目 今日、目の前にいる人は、明日は会えないかもしれない・・・。

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巡礼17日目① カリヨン→テラディジョス・デ・ロス・テンプラリオス

 

早朝。カリヨンを出発し、麦畑を抜けると川に出た。

私とイヴの前を一人の小柄な巡礼が歩いていた。

まだ肌寒いのに半袖を着ている。そして髪の毛があっちゃこっちゃ跳ねている。

寝グセ頭の巡礼、オーストラリア人のマルコルムだとすぐにわかった。

 

「オラー! マルコルム!」

 

私が呼ぶと、彼は小動物のようにビッと振り向いた。

その顔は湯気が出るように真っ赤だった。

 

「僕は暑がりなんだ。だから半袖を着ている」

 

私もイヴも何もたずねていないのに、彼は言い訳するようにそう言った。

 

わたし  「ホット! ユーアー・ホットマン!」

マルコルム「(大真面目な顔で)ホットマーン!」

イヴ   「・・・ビタミンC(オレンジを出してマルコルムに渡す)」

マルコルム「サンキュー! ビタミンC〜!」

わたし  「ビタミンC、大事!」

マルコルム「その通り! 僕はここで休憩する!」

わたし  「シーユー! ブエン・カミーノ!」

マルコルム「ブエン・カミーノ!」

 

私とイヴはマルコルムを後にして歩き出した。

マルコルムは、ずっとずっと手を振っていた。

 

 

そしてまた道は、延々と続く麦畑となった。

畑の中に時々見える黄色い花は、タンポポか菜の花。

スズメたちはさえずり、カササギが空を横切っていく。

 

なぜこんなに世界はきれいなんだろう。

なぜこんなにカミーノは平和なんだろう。

私とイヴはオレンジを食べながら、光の中を延々と歩いた。

 

 

麦畑の道で、次に会った巡礼は、身長2メートル近いタイスだった。

オランダ人のミニヨンの彼氏だ。私はタイスに聞いた。

 

わたし「タイス、今日はどこまで歩くの?」

タイス「・・・(私の英語が下手すぎて理解できない?)」

わたし「ミニヨンとガイたちは? あとで、来る?」

タイス「ミニヨンとガイはもう来ない」

わたし「・・・?」

タイス「バスでレオンの病院に行ったんだ、足の治療に」

わたし「・・・・・」

タイス「二人とも、カミーノはもう歩けない」

      間

わたし「It's lonely」

タイス「・・・(ちょっと笑った)」

 

 

アルベルゲでは、日本人巡礼のY君とまた一緒になった。

荷物を整理しながら、私たちは日本語で話をした。

 

わたし「会う人がだんだん決まってきたりするよね」

Y君 「一日に歩く距離が一緒だと、泊まるアルベルゲも同じになるから」

わたし「そうそうそう」

Y君 「会うと嬉しい人と、悪いけどあまり会いたくない人がいたりして」

わたし「いるいる〜」

Y君 「こいつと同じアルベルゲはいやだから、もっと先行こうとか思ったり」

わたし「あるある〜」

      二人、笑う。

わたし「日本人のKさん、会った?」

Y君 「会ってない。でも、噂は聞いてます」

わたし「きっと会うと思うよ」

Y君 「会ってみたいなあ」

      間

わたし「足にマメってさ、できる?」

Y君 「全然」

わたし「わたしも〜。たぶんね、日本の五本指靴下がいいんだと思う!」

Y君 「厚手のソックス二枚履き。これ知らないから外人みんなマメつくる」

わたし「だよね〜!」

 

 

その日のアルベルゲの夕食は爆裂に楽しかった。

テーブルを囲んだのは、私とイヴとY君と韓国人のキムさん。

このキムさんはゆうき君の友人で、私とイヴは初対面だった。

そして彼は、私とイヴよりも、英語ができなかった。

 

韓国人の巡礼は多いが、英語ができる人がほとんどだ。

でも彼は言葉の壁に臆せず、適当な英語でガンガン話しかけてくる。

ストレートなコミュニケーションへの情熱が、笑えるくらいステキだった。

英語と韓国語と日本語とフランス語が飛び交う食卓で、勇気をもらった。

 

 

夜。四人部屋のベッドには、私とY君とイヴと、もう一人。

ここのところ続けて一緒になる、腰を痛めているアンニュイな女性の巡礼がいた。

彼女はここでも人と関わろうとはせず、見えないバリアーをまわりに張っていた。

私は挨拶もしなかった。

 

 今日、目の前にいる人は、明日は会えないかもしれない。

人と人とが出会うという奇蹟に、もっと敏感でありたい。

寝袋にくるまって日記にそう記しながらも、私は目の前の彼女を無視した。

 

部屋の電気をつけたままだった。

それが気に障っていたのだろうか。

私が日記を書き終えたと同時に、アンニュイな彼女が怒ったような口調で言った。

 

「Turn off!」

 

私は黙って、電気を消した。

 

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