カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼22日目③ サクラ。ミモザ。鳥のさえずり。青空と土。レンガ色の壁に飾られたホタテ貝。路傍の聖母マリア。

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巡礼22日目③ リエゴ・デ・アンブロス

 

満開のミモザが私たちを出迎えた。

黄色い天使が羽を広げたようだった。

あまりの美しさに、村の入口で私とイヴは立ち止まった。

 

ミモザの花の向かいに小さな泉があった。

そこで私たちは水を汲んだ。

 

「オラー」

 

ペットボトルをリュックにしまいなおしているとき。

ミモザの天使が後ろから私たちに声をかけた。

振り返ると、とびっきりの美人がそこに立っていた。

 

「アルベルゲ?」

 

笑顔で天使に聞かれたら、YESとしか言えない。

私とイヴはきれいな天使に誘われ、そばのアルベルゲに向かって行った。

彼女はそこのオスピタレイラ(管理人)だった。

私たちは、今日はそこに泊まることにした。

 

宿には他に巡礼が一人いるだけだった。

あたたかな優しい感じのアルベルゲで、私たちはすぐに気に入った。

天使のオスピタレイラは私たちのクレデンシャルとパスポートをチェックした。

 

天使 「(イヴに英語で)フランスから来たの?」

イヴ 「Français. Bordeaux」

天使 「この名前はなんて読むのかしら? 綴りはどう書くの?」

イヴ 「?(英語が理解できない)」

わたし「Name. ・・・Ton nom Alphabet」

イヴ 「Yves, Y・V・E・S」

天使 「・・・(私に笑いかけ、記帳する)」

 

この頃、私にはわかりかけてきたことがあった。

言葉についてである。

 

英語に関して、どうやら私はイヴよりも聴く力があった。

けれども話す力は、私よりイヴの方が断然あるのだった。

イヴには、相手が誰だろうとフランス語で話すというワザもあった。

それは有効だった。フランス語が話せる人は結構いたからだ。

 

ポルトガルから来た巡礼は、100%フランス語ができた。

ポルトガルでは給料が安いから、みんなフランスに働きにくるんだ」

とイヴは言っていた。

 

私はといえば、どうやら意味ではなくエネルギーで理解しているようなのだった。

(あやしい話なので信じなくて結構です)

だからスペイン語も何となく「感じ取って」いた。

スペイン語は英語と違って、わからなくて当たり前という気軽さもあった。

だからこの頃いろんなスペインの単語を、私は呼吸するように吸収していった。

 

アルベルゲのベッドはコンパートメントに別れていたので、小さな個室状態だった。

久しぶりに他人の物音を気にせずにいられると思うと、嬉しかった。

洗濯とシャワーをすませ、私たちは村の散策に出かけた。

 

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小さな村は美しかった。なにもなかった。

村はずれに小さな教会と、レストランが一件だけ。

湧き水が出ているポイントがいくつかあり、たえず水音がしていた。

不思議なことに、他の巡礼も住人もひとりとして見かけなかった。

 

サクラ。ミモザ。鳥のさえずり。青空と土。

レンガ色の壁に飾られたホタテ貝。路傍の聖母マリア

 

時間はたっぷりあり、気にかけることは何一つなかった。

私とイヴはゆっくりゆっくり、小さな村を歩いてまわった。

 

 

夕食はペリグリーノ・メニュー。

村で唯一のレストランは、満開の桜の森の中にあった。

客は私たち二人だけ。花盛りの庭、特等席に座った。

 

イヴ 「(メニューを見て)lapinがあるよ!」

わたし「lapin?」

イヴ 「おいしいよ。僕は大好きだ」

わたし「(日本語で)らぱんってウサギじゃん!」

イヴ 「食べたことない?」

わたし「ないよ!(日本語で)でも絶対ここじゃなきゃ食べないよな」

イヴ 「・・・・・・」

わたし「Je mange aussi(私も食べる)」

 

ウサギの肉は、ウサギの足だとわかる形をしていた。

でも・・・おいしかった。(ウサギさん、ありがとう)

赤ワインを飲んでいると、おじさんペリグリーノが二人、通りかかった。

リュックのポケットから韓国の国旗が出ていた。

二人とも、めっちゃ笑顔だ。

 

「オラー! アニョハセヨー」

 

私が声をかけると、韓国語で話しかけてきた。

 

わたし「(自分を指差して)ノー! イルボン〜!」

二人 「(英語で)Oh〜! 君のこと知ってるよ〜! 歌をきいたよ〜!」

わたし「あ〜・・・(はずかしい)」←カリヨンだと思う。

二人 「君たちは明日どこまで行くの?」

わたし「明日?(イヴにフランス語で聞く)明日、どこまでいく?」

イヴ 「どこまでかな?」

二人 「ぼくらはこれからモリナセカまで行く」

わたし「うわ〜、がんばってね!」

二人 「また会えたらいいね〜!」

わたし「うん!・・・ブエン・カミーノ!」

二人 「ブエン・カミーノ!」

 

二人のおじさんたちは、ものすごくものすごく楽しそうだった。

もしかしたら偉い肩書きの人なのかもしれないけど、小学生のように元気だった。

断言しよう。カミーノでは、おじさんたちは確実に若返る。

 

ペリグリーノ・メニューの〆は特製ティラミスだった。

ボリュームたっぷりで、日本では食べたことのない美味しさだった。

私はレストランのボーイさんに伝えた。

 

わたし「トド・ムイ・ブエノ!(全部おいしかった!)」

ボーイ「(笑って英語で)ありがとう。食後にコーヒー飲みますか?」

わたし「どうする?」

イヴ 「カフェ・ソロ(ブラックコーヒー)」

わたし「私はカフェコンレチェ」

 

最後のドリンクはサービスだった。

 

支払いをするとき、カウンターの壁に世界の国旗のポスターが貼ってあるのを見た。

私がトリコロールを指差すと、イヴが日の丸を指差した。

それを見ていたボーイさんが、レジの下からルービックキューブを出してきて、私に聞いた。

 

ボーイ「これ、なんて書いてあります?」

わたし「(キューブに書かれた文字を見て)中国語だ。ごめん、わからない」

ボーイ「中国と日本、言葉が違いますか?」

わたし「中国、日本、韓国。言葉、全部ちがいます。でも、みんな顔は似ています」

ボーイ「!(笑った)」

 

 

アルベルゲは静かだった。窓から夕陽が差し込んでいた。

イヴは共有スペースのソファで本を読んでいた。

もう一人いた男性の巡礼も、やはり本を読んでいた。

 

21時過ぎても明るかったから、私は一人で散歩に出かけた。

静かな村。静かな夜。

 

明るい闇の中に、花の香りがたちこめていた。

足の下からは、水の流れる音。

見上げると半分の月が、真上で白く輝いていた。

 

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