カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼33日目 「今日、私たちはペリグリーノじゃない」「そう、僕たちはトラベラーだ」

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巡礼33日目 サンチャゴ・デ・コンポステーラ

 

朝起きて気が付いた。

ドアの下に小さな紙が落ちていた。

手帳のページを破った用紙に手書きで「Bonne nuit」。

イヴが昨夜、私に書き置いて行ったのだ。

 

着替えをして、大聖堂のミサに出かけた。

大勢の人がいる中、私はすぐにイヴを見つけた。

前の方のベンチに座って、きょろきょろしている。

肩に手を置いたら、振り向いて微笑んだ。

私はイヴの隣に腰掛けて、言った。

 

「今日、私はやりたいことがある」

「サンチャゴの駅で切符を買いたい」

「君は一緒に行く。私を手伝う。オッケー?」

 

イヴがうなずいた。

 

イヴは新しいグレーのTシャツを着ていた。サンチャゴのロゴが入っている。

いいね、と言ったら、昨日買ったんだ、と嬉しそうに答えた。

 

大聖堂を出て駅へ向かう途中で、サガンにあった。

サンタ・イレーネのアルベルゲで会ったエレガントな老婦人だ。

彼女も私たちを覚えていたらしく、手を振ってきた。

私たちも手を振った。彼女も今日はリュックを背負っていなかった。

 

わたし「今日、私たちはペリグリーノじゃない」

イヴ 「そう、僕たちはトラベラーだ」

 

私たちはサンチャゴの鉄道駅に行った。

フィステーラまでの旅が終わったら、私はサンチャゴからルルドへ行く予定だった。

その切符が欲しかったのだ。

調べた結果、サンチャゴからイルンまで鉄道で行けることがわかっていた。

さらにイヴの検索で、イルンの先のアンダイエまで行く列車があることがわかった。

 

わたし「アンダイエってどこ?」

イヴ 「アンダイエはフランスだよ。川を挟んでスペイン(イルン)とフランスに分かれる」

わたし「フランスなんだ! じゃあ、そこまで行けばバッチリじゃん!」

 

ルートが決まった。アンダイエで一泊して、ダックスを経由してルルドへ行く。

サンチャゴからアンダイエはRenfe(スペイン国鉄)。

アンダイエからルルドSNCF(フランス国鉄)だ。

 

後者はフランス語のサイトをイヴと見ながらネットで予約した。

あとはサンチャゴの鉄道駅でアンダイエまでの切符を買うだけだった。

 

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イヴ 「さあ、切符を手に入れた。次はどこへ行く?」

わたし「バス停に行きたい」

イヴ 「バス停?」

わたし「フィステーラからバスで帰った時、どこに着くか知りたい」

イヴ 「バスターミナルはここから真逆だよ」

わたし「かなり歩く?」

イヴ 「いつもほどじゃない」

わたし「今日私たちはペリグリーノじゃない」

イヴ 「そう、トラベラーだ」

 

ゆっくり反対方向へ歩いてバスターミナルへ行った。

そこでアルゼンチーノ夫婦に再会した。

 

イヴ 「サモスで一緒だったアルゼンチーノだよ」

わたし「(日本語で)悪夢を見て叫んだ奥さんだ」

 

旦那さんはフランス語ができたから、イヴといろいろ話していた。

彼らはちょうどフィステーラからバスで帰ってきたところだった。

 

だんな「バスでフィステーラへ行ったよ。素敵な海だった」

イヴ 「僕たちは明日から、歩いて行くんだ」

だんな「歩いて? (奥さんに通訳して)彼らは歩いて行くそうだよ」

奥さん「歩いて? (私に英語で)あなたも歩くの?」

わたし「歩きます。三日かけて」

奥さん「(私をハグして)あなたは勇気があるわ・・・」

 

英語がもっと話せたら、あの奥さんとは深い話ができたに違いない。

彼女とは心で触れ合うものがあった。

お互いに手をとりあって、目を見つめた。

繊細でパワフルなエネルギーが彼女から感じられた。

私たちはもう一度ハグをして、握手して別れた。

 

わたし「バス停まで来てよかった」

イヴ 「君はいつも正しい」

わたし「宇宙はいつも正しい」

 

宇宙はタイミングを外さない。すべてが調和され、調整されている。

もはや疑う余地なく私はそう思っていた。

 

 

坂の上のアルベルゲへ帰るとき、階段の数をフランス語で数えながら登った。

イヴと声をあわせて登っていったのだが、50過ぎた辺りで私がどもってしまった。

フランス語の数字は慣れるまで難解なのだ。イヴは最後まで数えた。

坂の上のプロムナードでは、藤の紫が美しかった。

 

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夜はアルベルゲの食堂で自炊した。

「今日は君が作って」とイヴ。

そんな時に限ってキッチンが激混みだった。深鍋はないし、火力も弱い。

パスタが鍋にくっついてしまった。こそげ落とすように皿にあけた。

 

わたし「ごめんね、アルデンテじゃなくて」

イヴ 「おいしいよ」

わたし「・・・(日本語で)みそ汁でも作ってあげたいよ」

 

明日はフィステーラへ出発だ。

また巡礼に戻って歩くのだ。

そしてフィステーラに着いたとき、イヴと別れることになる。

 

わたし「明日からまたペリグリーノだね」

イヴ 「明日からまたペリグリーノだ」

わたし「(日本語で)アンダンテで歩こうね。アルデンテで食べようね」

イヴ 「(わかったらしい)アンダンテ。アルデンテ」

 

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