カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼35日目 人が死ぬのと同じように、旅はいつか終わる。終わるから、今がこんなにいとおしい。

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巡礼35日目 ビラセリオ → オ・ロゴソ

 

「エオリエンヌ」

 

一番最初にイヴから教わったフランス語。

きれいな響きだからすぐに覚えた。

意味は風力発電機。カミーノを歩いていると必ず出会うモノだ。

この日も丘の上でくるくる回っていた。

 

 

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オ・ロゴソ。小さな静かな村だった。

バールを兼ねたアルベルゲで、笑顔のステキなオスピタレイラが迎えてくれた。

私たちは一番乗りだった。

 

好きなベッドを使っていいわよ、と言われたので階下の入口に近いベッドを選んだ。

そこならキッチンも近いし、翌朝に裏口から出るのもスムーズだと思った。

 

わたし「(日本語で)ここがいい」

イヴ 「君の選択は正しい。僕もここがいい」

わたし「でしょう」

 

天気がよかったので、調子に乗ってたくさん洗濯した。

物干し場が私の洗濯物で溢れた。

すぐ乾くから、そんなに汚れていなくてもついつい洗ってしまうのだ。

 

イヴ 「僕はサンチャゴでハサミを買ったよ。これで君の前髪を切る」

わたし「(日本語で)え〜、そのために買ったの!」

 

アルベルゲの裏口の石段で、イヴが私の前髪を切ってくれた。

通りがかりのペリグリーノが私たちを見て微笑んだ。私も笑った。

イヴはものすごく真剣にハサミを使っていて、それがまた妙におかしかった。

 

時間がたっぷりあったので、バールでお茶を飲んでから散歩に出かけた。

道の真ん中に、毛並みのきれいな馬がいた。でも飼い主が見当たらない。

おとなしい馬だったので、私は心ゆくまでなでなでした。

 

イヴ 「小さい頃、僕は馬を飼っていた。僕はその馬が大好きだった」

わたし「・・・」

イヴ 「でもその馬は(悲しいことがあって、という感じのフランス語が続いて)死んだ」

わたし「・・・・・・」

イヴ 「僕はとても悲しくて、それからしばらく馬に乗れなかった」

      間

わたし「あなたは馬に乗るのが上手?」

イヴ 「(当たり前のように)とても上手だよ、君は?」

わたし「日本では、日常的に馬に乗ることはない」

イヴ 「・・・(うなずく)」

 

 

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部屋に戻ったら、ヒゲもじゃのペリグリーノがいた。

 

ヒゲ 「どこから歩いてるの?」

わたし「サンジャン・ピエ・ド・ポー」

ヒゲ 「おー!」

わたし「でも、私の友達はフランスのヴェズレーから歩いてる」

ヒゲ 「(オーバーアクションで感激)それはすごい!」

わたし「あなたは?」

ヒゲ 「プエンテ・ラ・レイナから」

わたし「プエンテ・ラ・レイナ! 私はそこのアルベルゲで悪夢を見た」

ヒゲ 「ナイトメアー?」

わたし「ナイトメアー」

ヒゲ 「ナイトメアーを見るペリグリーノは多い」

わたし「あなたも見た?」

ヒゲ 「いや僕は見ない。でも見たと言う話をときどき聞くよ」

 

 

夜はアルベルゲで自炊。二人だけだから静かな食卓だ。

イヴはパスタをゆでるとき、腕時計で正確に時間を測る。

そしてゆでている間に、手早くアボガドとトマトでサラダを作る。

 

イヴ 「上のバールでワインを買ってくるよ。(パスタを)見てて」

わたし「ダコー」

 

持っていた缶詰や非常食を使い切って作った夕食は、豪華だった。

もう旅は終わるから備蓄は不要。パスタの残りもキッチンに置いてきた。

 

わたし「(ワイングラスを掲げて)サンテ」

イヴ 「(ワイングラスを掲げて)サンテ。・・・日本語ではなんて言うの?」

わたし「乾杯!」

イヴ 「KANPAI!」

 

赤ワインで乾杯。

 

目の前のフランス人が家族のように思えた。

この頃は、日本語で話してもフランス語でちゃんと答えが返ってくる。

おそろしいほど私たちは会話が成り立っていた。

 

アタプエルカで会ってから、一緒に歩いて23日目。

彼と会わなければ、私はフィステーラまで歩こうなんて絶対に思わなかった。

ここにこうしていることは確実になかった。

 

わたし「あのね」

イヴ 「?」

わたし「あなたの(死んだ)友達のダニー」

イヴ 「うん」

わたし「ダニーが私たちを会わせてくれた。私はそう思う」

イヴ 「僕もそう思う」

     間

わたし「ダニーありがとう」

イヴ 「・・・・・・」 

 

夜7時だけどまだ明るかった。

裏口のドアが少しだけ開いていて、そこからやさしい風が吹いた。

ドアのガラス越しに、エオリエンヌがまわっているのが見えた。

 

・・・ふと、私は思った。

きっとイヴは私と別れたあと淋しくなるだろう。

もしかしたら、私がそう感じる以上に。

 

時々彼がそのことを考えているのが、なんとなく伝わってきた。

彼はメランコリックだ。

それがフランス人の気質なのか、彼自身の気質なのかはわからないけれど・・・。

 

人が死ぬのと同じように、旅はいつか終わる。

終わるから、今がこんなにいとおしい。

終わることは悲しみとは限らない。

私はオプティミストだ。

 

やさしい風が吹いていた。

食事のあともソファに座って、エオリエンヌが回っているのを二人で見ていた。

 

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