カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼38日目 旅に必要なのは一本のナイフとビタミンCだよ。

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巡礼38日目 サンチャゴ・デ・コンポステーラ → アンダイエ

 

イヴ 「僕の父親はいつも大きなナイフを腰から下げていた」

わたし「・・・」

イヴ 「彼はそのナイフで、なんでも上手に仕事をこなした」

わたし「あなたもナイフを使うのが上手」

イヴ 「旅に必要なのは一本のナイフとビタミンCだよ(と、オレンジを差し出す)」

 

イヴの左手はまっすぐ平らに開かない。

親指の付け根からぐっさり切れた跡があって、曲がったまま骨が固まっているのだ。

その理由を彼は説明してくれたが、難しい単語がありすぎてよくわからなかった。

私はただ、曲がらないその手を自分の両手で大切に包んだ。

 

その日の朝。

約束の時間より早くついたので、私はアルベルゲのベンチに座って空を見ていた。

時間通りにやって来たイヴは、私を見てちょっと驚き、それからホッとした顔をした。

 

イヴ 「君が来ないかもしれないと思ったら、僕はブルーになった」

わたし「ブルー??」

 

アルベルゲでいつものように朝食をとり、私たちは町へ向かった。

ふと、イヴが立ち止まり、私を強く抱きしめた。

あんまり力が強いから、苦しくなって笑った。

イヴは何も言わなかったけど、気持ちは伝わった。

 

サンチャゴの鉄道駅。

列車が来るまで、イヴはずっと一緒にいてくれた。

私たちは沈黙を共有し、他愛ない話を交わした。

 

二回めの別れは、フィステーラのそれよりも悲しくはなかった。

やっぱり彼は「刀で切るように」首を振って去ったのだけど、

涙を見せたくないからだと、今度はわかった。

 

・・・そしてサンチャゴから列車は出た。

アンダイエまで、11時間の長距離走行だ。

窓の外に、カミーノで歩いてきたいくつかの町や村が見えた。

はっとした。列車はカミーノ・フランセを逆走していたのだ。

 

最初の頃ひとりで歩いていた道を思い出した。

一期一会で巡り会ったみんなはどうしているだろうか。

レオン駅を過ぎるとき、大聖堂をイヴと見たことを思い出した。

アンニュイなオルガとの再会。カミーノ・マジック・・・。

 

北の道の出発点であるイルンと、国境を挟んだフランスのアンダイエは目と鼻の先だった。

そもそも私はパリからバイヨンヌへ行き、サンジャンに入って巡礼を開始した。

そのバイヨンヌもすぐ近かった。

 

めぐりめぐって出発点に戻って来たのだ。

でも巡礼当初とは私の度胸が違っていた。自分と世界に対する信頼感もあった。

終着駅アンダイエで列車を降りると、もう真っ暗だった。

私は予約していた駅前のホテルに行った。

 

フランス語と英語と、どちらで説明を聞きますか、とホテルのマダムに聞かれた。

フランス語で、と言ったら、私にわかるようにゆっくりと話してくれた。

部屋は3階のワンフロアで、とてもかわいかった。もちろん浴槽もある。

湯船につかったのは何十日ぶりだろう。私はゆっくりくつろいだ。

 

寝る前にイヴにメールを送ったが、返事はこなかった。

きっともう眠ってると思った。

 

明日、ここからルルドへ行く。

ルルドでは自炊可能なstudioをネットで予約した。連泊だ。

ルルドはフランスの巡礼地。ずっと行きたかった聖地だ。

私の巡礼はもう少しだけ、続く。

 

 

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