NANS LES PINS → PLAN D'AUPS
MARSEILLE → NANS LES PINS
マルセイユから4001番BRIGNOLES行きのバスに乗り約一時間。
ナンレパンのバス停、La Ferrageで降車する。
バスの運転手さんに「降りるとき教えて」と伝えていたのだが、忘れていたらしい。
後ろのドアが開かなかった。
「Excusez-moi!」と叫ぶと、バンとドアが開いた。
観光案内所はバス停から歩いてすぐ。
ここで地図をもらおうと思っていたのだが・・・閉まっていた。
ドアには〝今日から三日間休み〟という張り紙。
どうしようと思ってキョロキョロすると、ラッキーなことに隣が警察署だった。
小さな署内には、いかつい顔のおじさんポリスが三人。
しかし、顔は強面でも、彼らはうっとおしいほど親切だった。
「今日は雨が降るけど大丈夫か?」
「あんたの足では三時間かかるぞ」
「どこから来たんだ」
「どこに泊まるんだ」
「本当に車じゃなく歩くのか?」
「どうかしてるぞ!」
「腹減ってないか?」
「傘はあるのか?」
「そんな荷物を背負って歩いて大丈夫か」
大丈夫、いつものことです。心配いりません。傘もあります。
私は笑顔で答えた。
ポリスたちは町の地図をくれた。
そして私が持っていた大きな山の地図に、曲がる場所のポイントも書き込んでくれた。
よし。これであとは歩くだけ。
時間は11時を少し回っていた。
軽く昼食をとって12時に出発すれば15時には着くだろう。
修道院の受付開始は15時だから、ちょうどいいと思った。
NANS LES PINS → SAINTE-BAUME(PLAN D'AUPS)
ポリスたちが教えてくれた方角へ行くと、サントボーム の山が見えた。
あそこに登って行くんだ、と思うとワクワクした。
PLAN D'AUPSを目指して私は歩いた。
山道は確かに登りだが、D80という国道に沿っているので迷うことはない。
途中で、トラックの運転手二人に声をかけられた。
上まで乗せてくれるというのだ。
ありがたい申し出だとは思ったが、私は歩きたかったので、断った。
「C'est fou! (歩くなんて)どうかしてるよ!」
二人とも、人差し指をこめかみに軽く当てるジェスチェーをしてそう言った。
同じことをポリスも言ってたから、確かに歩く人はいないのだろう・・・。
カミーノ を歩いていなかったら、私は喜んで車に乗っていたと思う。
でも歩ける自信があったし、歩きたかったのだ。
ジグザグ道をゆき、1時間15分ほど歩いたところで、カミーノ・マークを発見!
マークの上の標識には、サントボーム の修道院まで2.5キロと記してあった。
私は迷った。近道か・・・。
矢印の先には、道があった。
細くて、急勾配の山道。
これを登れば修道院に出るということか?
・・・でもその道は、ちょっと険しすぎた。
重いバックパックを背負って登りたくはなかった。
それに本当に近道なら、親切なポリスが説明してくれたはずだ。
また地図によると絶景ポイントが近くにあるはずだったが、まだ出会っていなかった。
私は国道をまっすぐ進むことにした。
直感はあっていた。
絶景ポイントはその先にあった。(本当に絶景すぎて写真におさまらなかった)
愚直にまっすぐ歩き続けてよかったのだ。
そしてまたしばらく歩き、ふと見ると、PLAN D'AUPSの標識が出ていた。
あれ・・・着いちゃった?
時計を見ると14時。私は2時間で到着していた。
「ここだここだやっと来たんだ、エライぞ!」と自分で自分をほめちぎる。
受付開始までまだ1時間あるので、目の前の観光案内所へ。
案内嬢は色付きペンを使い分けながら、聖域への行き方を地図で説明してくれた。
洞窟への道
洞窟までは往復1時間半。二つの登山道がある。
一つは修道院の左の道を進み、〝カナペ〟と呼ばれる巨大な岩山のそばを通る道。
もう一つは来た道を少し戻り、三本樫の交差点と呼ばれる地点からスタート。
比較的なだらかな〝王たちの道〟を行く。
最初に前者の道を行き、帰りに後者を降りてくると良いと勧められた。
さらに洞窟から片道1時間の山道で、サン・ピロンの礼拝堂へ出る。
案内嬢「サン・ピロンからの眺望は、素晴らしいわよ」
私 「わかった。ありがとう!・・・私、ナンレパンから歩いてきたんだよ」
案内嬢「シュペール!(すごい)」
初めて他人にほめてもらえた。(ほめられたかった!)
一軒だけある食堂で、クロックムッシュを食べ終わったら、ちょうど15時だった。
修道院の受付へ。
対応してくれたのは、眼鏡をかけた若い修道女さん。
子供に話すような超ゆっくりのフランス語で対応してくれた。ありがたかった。
部屋はシャワー付きのツインベッド。十字架。机と椅子とソファのみ。
シンプルこの上ない。
もともとミニマリストの私は、いっぺんで気に入ってしまった。
ゆっくり休もうと思っていたのだが、私はまだ元気だった。
曇りとはいえ陽も高く、雨は降りそうに見えない。
どうしよう・・・。
洞窟までは往復で1時間半。
18時が下山門限だが、いま歩き出せば帰ってこられる。
「よし、洞窟まで行こう」
私はレインスーツに着替えて歩き出した。