カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼24日目 ありふれたすべてが、ありのまま、うつくしかった。

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巡礼24日目 カンポナラジャ → トラバデロ

  

鮮明にその村のことは覚えている。トラバデロ。

 

木々の緑。空の青。午後の光。川音。

色あざやかな花たちが小さな村に溢れていた。

私はその景色と一つになって歩き、光を浴びた。 

 

 

・・・その村に着いてすぐのことだ。

バールでイヴと昼食をとっていると、三人の親子の巡礼が入ってきた。

まだ新しいカリマーのバックパックとアウター。

父親はまだ若く、子どもたちは整ったきれいな顔立ちをしていた。

美しい英語で彼らは静かに注文をした。

イギリス人かな、と私とイヴは小声で話した。

 

バールを抜けてアルベルゲを探していると、小柄なお婆ちゃんが話しかけてきた。

あっちにいいアルベルゲがある、というようなことを言った。

私たちはそこへ向かった。

 

その二階建てのアルベルゲは無人だった。

キッチンは二階に、シャワーとトイレは一階と二階にそれぞれあった。

二階の小さな部屋には、二段ベッドが三つ。

悪くない。しかも5ユーロだ。

 

私たちはオスピタレイロを探したが、誰もいない。

しばらく二人で待ったが、現れそうにもなかった。

 

どうする?とイヴがきいた。

 

私は誰もいないのに勝手に荷物を置いてシャワーを浴びるのに、抵抗があった。

だから荷物をベッドではなく、受付の前に置きに戻った。

そしてその場にしゃがみ込んだ。どうしていいかわからなかった。

 

イヴが戻って来て、私の前にしゃがみ込んだ。

私の行動が理解できないようだった。彼は眉間にしわを寄せて訊いた。

 

イヴ 「なぜ君は荷物を下ろした? ここに泊まりたくないの?」

わたし「(なぜか日本語で怒る)だって誰もいないのに勝手に使えないよ!」

イヴ 「・・・・・・」

わたし「(うまく説明できない)Esprit, japonais!(日本人の精神)」

      間

イヴ 「入口の壁に張り紙がある。自由に使っていいって書いてあるよ」

わたし「・・・?」

イヴ 「後からオスピタレイロが来る。だからそれまで自由に使って下さいって」

わたし「・・・(入口に確認しに行く)」

      間

わたし「本当だ、英語読んでなかった。Tu as raison(君は正しい)」

イヴ 「・・・・・・」

 

シャワーを浴びて洗濯物を干していると、歌声が聞こえた。

見ると、暑苦しいほど濃い顔をした男のペリグリーノがいた。

 

濃い男「オラ〜! ここ誰もいないの〜?」

わたし「うん。でもオッケーオッケー」

濃い男「オッケー!(歌いながら二階へ上がって行く)」

 

彼の名前はアルド。イタリア人。

とにかくず〜っと歌っていて、うるさいくらい陽気だった。

 

私はイヴに、散歩に行ってくるといって一人で出かけた。

一人になりたかったのだ。

 

 

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アルベルゲへ戻ると、さっきの小柄なお婆ちゃんが入口にいた。

私は、彼女がオスピタレイラだったのかと思い、受付をしてほしいと頼んだ。

 

おばあ「(スペイン語で)あたしはオスピタレイラじゃないのよ〜!」

わたし「(クレデンシャルを出して)セージョ、ポルファボール!」

おばあ「だから私は巡礼スタンプ押せないのよ〜!でも仕方ないねえ!押すわよ!」

わたし「?????」

おばあ「はい!特製スタンプ!」←そんな感じのことを言った

 

お婆ちゃんは、アルベルゲのセージョ(スタンプ)ではない、別のスタンプを出した。

そして私のクレデンシャル(巡礼証明書)に、それを押してくれた。

私はよくわからないけど楽しくなった。

お婆ちゃんにグラシア〜スと言った。お婆ちゃんは陽気に笑った。

 

 

ホンモノのオスピタレイラがやって来たのは夕方6時半頃だ。

私とイヴはキッチンに立っていた。

キヌアと卵をメインにした二人分の食事を、イヴが上手に作ってくれた。

 

イヴ 「僕は森を散歩してこれをとってきたよ」

わたし「わ、栗だ!」

イヴ 「これも食べよう(と、どっさりゆでる)」

  

夕食は私とイブ、それから自転車で巡礼しているポルトガル人の三人でとった。

彼はフランス語ができたので、イヴは楽しそうに話していた。

私は会話について行けず、栗の皮をむいていた。

そこに韓国のおじさん巡礼が加わった。

彼は、私がウサギを食べたレストランで、道の前を通った韓国人の一人だった。

彼はフランス語ができない。

でも一生懸命会話に加わろうとしていて、その姿が、ちょっといとしかった。

 

わたし  「(フランス語)ポルトガルのファティマ、行ってみたい」 

ポルトガル「(フランス語)ファティマは素晴しい聖地だ」

イヴ   「(フランス語)その通り。崇高な場所だ」

韓国おじ 「(英語)私もファティマ行きました」

わたし  「(日本語)ファティマ行ったの?(フランス語)彼ファティマ行ったって!」

韓国おじ 「(英語)ファティマは素晴しかったです」

イヴ   「(フランス語)彼女はサンチャゴの後、ルルドへ行くんだ」

ポルトガル「(フランス語)ルルドは行くべきだ」

韓国おじ 「(英語)あなた、ルルドへ行くの?」

わたし  「(日本語)うん」

韓国おじ 「(英語)私は去年、ルルドに行きました」

わたし  「(日本語)え、行ったの?(フランス語)彼ルルドも行ったって!」

 

隣のテーブルでは、アルドと陽気な仲間たち(?)が歌いながらワインをあけていた。

彼らの食卓上には、ミートソースのパスタが冗談のように山盛りになっていた。

陽気な笑い声は遅くまで続いた。

私はポルトガル人が注いでくれたワインを飲み過ぎて、体がとても熱かった。

 

 

・・・今でも克明に、その村のことは覚えている。トラバデロ。

 なんの特徴もない、目新しいものもない、通りすがりの素朴な村だ。

 でもあの村のことを思うとき、聖地に行ったかのように、心が浄められるのだ。

 

ひとりで歩いた道。空。

 

ひかり。みずおと。はなのいろ。

 

ありふれたすべてが、ありのまま、うつくしかった。

 

 

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