Etape24 Lascabanes ~ Lauzerte
Etape 24 Lascabanes ~ Lauzerte 24km
ラスカバヌを出てまもなく、前を歩く巡礼の後ろ姿を見かけた。
若い男性だ。
誰かの後ろ姿を見ながら歩くのはスペインの時は普通だったが、今回はレアだ。
私は気になって早足で彼に近寄った。
と、ちょうどサンジャンの教会が出現し、彼は中に入った。
私もその後を追って入った。
Chapelle St-Jean
わたし 「(見知らぬ聖人を見上げて)これ誰?」
彼 「知らない」
わたし 「(教会由来の説明書きを読んで)よくわからない」
彼 「(読んで)僕もよくわからない」
間
彼 「君、日本人?」
わたし 「そう。あなたはフランス人」
彼 「うん。僕ミカエル。君は?」
わたし 「MIKI」
彼 「MIKI?」
わたし 「そう。・・・ミカエル? ミッシェルじゃなくてミカエル?」
ミカエル「うん」
わたし 「(翼を広げたアクション)大天使ミカエル?」
ミカエル「そうだよ。僕モンサンミッシェルから来たんだ」←ジョークです
ミカエルは20代半ばくらい。
つるんとした印象の、勉強ができなそうな(失礼)カワイイ男の子だった。
私はいっぺんに彼が気に入った。
教会を出てしばらく、私はミカエルの背中を見ながら歩いた。
歩くスピードが同じくらいだったから距離が縮まらず、そこが良かった。
守護天使に出会ったぞ、と私は思った。
大天使ミカエルに導かれて歩いているようで、嬉しかった。
Montcuq
モンキュの町ではマルシェが開かれていて、賑やかだった。
モンキュというと「Mon cul(私のお尻)」かと誤解したが、綴りが違う。(当然だ)
不思議な楽器でパッフェルベルのカノンを演奏している男性がいた。
その美しい音色に足を止めて聴き入ってしまった。
観光案内所の前でミカエルと遭遇。
彼はここで宿を予約したらしい。
でもイースターだからどこも満室だと言われたそうだ。
私は昨日の予約が取れているかが気になっていたので、問い合わせることにした。
わたし「ロゼルトの宿に泊まりたいんですけど」
案内係「今日はどこもいっぱいよ」
わたし「昨日、ラスカバヌのジットで予約を頼みました。確認したいのです」
案内係「聞いてみましょう。(電話して)でないわ。つながらないわね」
わたし「(不安になって)・・・他の宿を予約できますか?」
案内係の女性とおじさまは親切で、片っ端から電話をかけてくれた。
だが、ロゼルトの宿はホテルもどこも既にいっぱい。
途中にある小さな村ではどうかと聞いたが、やめたほうがいいと断られた。
困っていたら、案内所の電話が鳴った。
何やら話している。ジャポネーズと聞こえたから私のことらしかった。
案内係「ロゼルトのジット・コミュナルに予約できてるって」
わたし「!」
案内係「15時以降にいらっしゃいって言ってるわ」
わたし「ありがとう!」
ラスカバヌのセシルがちゃんと予約してくれていたのだ。嬉しかった。
それからは軽快に足が進んだ。
菜の花畑を過ぎ、森に入ると、カエルが大合唱している緑色の沼に出た。
カエルはフランス語でグルヌイユ(Grenouille)。
奇妙な言葉だと思っていたけど、低くギュルギュル鳴く声を聞いて納得した。
日本で表記するようにケロケロなんて鳴かない。
ギュルギュル・・・グルヌイユだ!
沼の一帯は、魔女が出てきそうなグロテスクな雰囲気が漂っていた。
魔女の沼の後はロバさんと遭遇。瞬時に心安らぐ〜。
Lauzerte
ロゼルトに入る頃には小雨が降っていた。
イースター当日だというのにうら寂しい。
とはいえ教会前の広場では植木市が開かれ、賑わっていた。
教会を出て雨の中、ジットを探して彷徨っていたら、宿の中から声をかけられた。
声の主はコリンヌ。ジット・コミュナルの管理人だった。
日本人の宿泊者は珍しいので、すぐにわかったのだろう。
Gîte communal de Lauzerte
チェックインしてお茶を飲み、体が温まった頃、コリンヌが部屋割りを告げた。
「今日MIKIの部屋はスペシャルよ。イースターで部屋はどこも満室」
「でもセシルに頼まれてね。どうしてもMIKIを泊めてあげてって」
「だから私は夕食後、サロンにあなた専用のベッドを作ります」
「MIKIは今夜羽布団で寝るのよ、王妃みたいにね」
イースターの奇跡!
私はその日、ドミトリープライスで広いサロンを独り占め。
わたし 「どうしてそんなに親切なの?」
コリンヌ「(抱きしめて明るく)普通のことよ。巡礼には誰だってそうするわ!」
サロンにはたくさんのカミーノに関する書籍や地図が置かれていた。
私は机に置かれていた大判の写真集を開いた。
そこには今まで歩いてきたルピュイの道とロカマドールの写真があった。
歩いたよ、ここ。ここも行ったよ、通ったよ。
グラビアの美しい景色や聖堂が、全部体の中に記憶として入っていた。
写真よりも確かに。そこで出会った人たちとの思い出と一緒に。
イースターにモワサックにはたどり着けなかったけど、これでいい。
完璧だ。
私は確信していた。
完璧に信頼していい。この世界は私を裏切らない。
たとえ私の目にどのように写ろうとも、私は世界から愛されている。