Arles
アルル。それはルルドと並んで「日本人にとって発音しにくい地名」だ。
相手に首を傾げられる前に、「アヴィニョン近くの」(près d'Avignon)と言い添える。
アルルはエクサンからもマルセイユからもアクセスしやすい。
SNCFがストライキ中だったこともあり、私はバスを利用した。
古代ローマの遺跡やゴッホゆかりの場所などあり、観光客が多い。
そのせいか、近隣の町より少し物価が高いようだった。
宿泊予定のAuberge de jenesse(ユースホステル)の受付まで時間があったので、
私はバックパックを背負ったまま歩いた。
Le Chemin d'Arles
「カミーノ 」アルルの道。ここはその出発点。アリスカン古代遺跡の前。
標識には、サンジャック・コンポステーラへ1560キロとある。
それらの地を通り、約900キロ先のプエンテ・ラ・レイナでフランス人の道と合流する。
黄色い矢印に誘われ、進んでいきたい欲望を抑え、サン・トロフィーモ教会へ歩いた。
Cathédrale Saint-Trophime
堂内の静けさと、美しい彫刻に心を奪われる。
一通り見たのち、ふとあるドアを見ると、見覚えある帆立貝の絵のポスターを発見。
これは・・・カミーノ巡礼案内ではないか。
そうだ、ここで巡礼スタンプをもらえるかもしれない。
私は辺りを見渡した。
入口近くの小部屋に、神父さまがいらした。
私は去年のクレデンシャルを出して、神父さまに尋ねた。
「スタンプが欲しいのですが・・・」
書き物をしていた神父さまは手を止め、私の目を見て言った。
「君は今日出発するの?」
「そうです」
「どこからきたの?」
「日本からです」
「ちょっと待ってて。(立ち上がり)こっちへ・・・」
映画俳優のように整った顔立ちの神父さまだった。40代くらい。しかも長身。
途中で聖像に一礼し、彼は帆立貝ポスターの貼られた別室へ入った。
私は部屋の前で待った。
しばらくして、クレデンシャルを持って神父さまが戻ってこられた。
「どうぞ」
クレデンシャルには青いインクでスタンプが押されてあった。
嬉しかった。
「やったあ!」
思わず子供のように声をあげ、その場でとびあがった。
「・・・お静かに」
神父さまは笑顔でたしなめられた。はい、ここは教会の中でした・・・。
教会の隣にある僧院の回廊も美しかった。
町を歩くことで、地図が体に入ってくる。
未知の情報だったものが、感情をともなった記憶となって体に刻まれる。
二日間で十分、見てまわることができた。
アルルは中継地点くらいに考えていたのだが、一番観光してしまった。
疲れたら、ローヌ川の川べりに寝転び、裸足になって休憩した。
今夜寝るところが決まっていることが心強かった。
このあと。
アルル経由でマルセイユへ戻り、サント・ボームへ行く。
いよいよだ。
夢で見た洞窟に、現実が近づいてきていた。