カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼30日目① あなたは愛される資格があるのよ。価値があるのよ。・・・愛されなさい!

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巡礼30日目① パラス・デ・レイ → リバディソ・ダ・バイショ

 

イヴと意志の疎通が上手くいかない。

言ってることがよく分からない。

時々、空気の読めないイヴが嫌になる。勝手なものだ。悲しくなる。

 

互いに勝手な行動をとる。イヴが少し腹を立てたように感じる。

どうして僕の言ってることがわからないのかと、思われてる気がする。

悲しい朝。二人とも口をきかない。

 

オ・セブレイロより高いコミュニケーションの山。

距離が近すぎるのか。そのそもお互いのことをほとんど知らないのだ。

言葉がこれだけ通じないのに、ここまで一緒に歩けたのが不思議なくらいなのだ。

 

イヴ 「・・・Ça va?」

わたし「Ça va・・・Merci」

 

メリデのバールに入るまで、私たちはほとんど話さなかった。

イヴはカフェソロを、私はコラカオを頼んだ。

カウンターにあったスタンプを押すため、クレデンシャルを広げた。

両面スタンプで埋まっている私たちのクレデンシャルを、店のおじさんがちらと見た。

 

テーブルの上に、いろんな色のキャンディーが入った小さな皿があった。

ご自由にどうぞ、ということだろう。私はそれを一つつまみ、ポケットに入れた。

広くない店内はペリグリーノで混雑していた。

目の前にはメリデ教会。もうすぐ始まるミサに、私たちは出席する予定だった。

 

天気は晴れ、青空が澄みきっていた。

店のおじさんが無言で、飲み物と一緒にケーキを運んできた。

タルタ・デ・サンチャゴ。

他の巡礼には内緒で、私たちだけにスペシャルサービスだ。

びっくりしたけど、うれしかった。グラシアス!と私たちは笑顔で言った。

 

 

・・・このあと。

メリデの教会であったことは、今でも思い出すと泣いてしまう。

私はそこで大きな愛をもらったのだ。

 

ミサが始まって、私とイヴは一番後ろに立っていた。

重いリュックを背負ったまま。

ミサには現地の信者の他、数名のペリグリーノがいた。

彼らは入口で聖水に指をひたして十字を切ったからキリスト教徒だ。

 

平和の挨拶が終わり、聖体拝領になった。

みんな司祭の前に並んだ。イヴも並んだ。

私の隣にいた韓国人夫婦のペリグリーノも並んだ。

 

後方のベンチに、黒い服を着たおばあちゃんがいた。

アンパンマンみたいに顔がまんまるの、小さいおばあちゃんだ。

一人だけ並ばない私を見て、指差して「並べ、並べ」とジェスチャーする。

私は「カトリック教徒じゃないから並べない」とジェスチャーで返した。

 

丸顔のおばあちゃんはなおも「いいから並べ」とジェスチャーする。

隣に座っていた別のお婆ちゃんが、彼女を制した。

それでもアンパンマンのおばあちゃんはジェスチャーをやめない。

私もやめない。無言のジェスチャー戦は、しばし続いた。

 

列に並んだ一人一人を、司祭は祝福した。

その様子を、私は後ろで立ったまま見ていた。

カミーノを歩いてたくさんのミサに出たが、この祝福の列に私は並んだことはなかった。

 

祝福はカトリック教徒だけのものだから。私はもらえない。

 

ミサが終わり、教会の外へ出た。

空が青く、光がまぶしかった。

私はミサが終わると、いつもほんのり幸せで、そしてほんの少し悲しかった。

ミサに出席できるだけで光栄だと思いながらも・・・。

 

さっきの丸顔のおばあちゃんが入口から出てきた。

私の前に駆け寄り、スペイン語でまくしたてた。

 

おばあ「(笑顔で)あんたバカね! 並べば良かったのよ!」

 

スペイン語はわからない。

だけど、わかった。

私はこのおばあちゃんの言ってることが、ダイレクトにわかった。

 

おばあ「あなたは祝福されていいのよ! 巡礼なんだから!」

わたし「や、でも・・・」

おばあ「いいのよ! あなたは愛されてるのよ! 祝福されていいの!」

わたし「・・・(首を振る)」

おばあ「あなたは愛される資格があるのよ。価値があるのよ!」

わたし「・・・(首を振る)」

 

おばあ「愛されなさい!」

 

わたし「・・・(突然、滂沱と涙があふれる)」

おばあ「祝福を受けとっていいのよ・・・ここまで歩いてきたんでしょ?」

わたし「・・・!(子どものように泣く)」

 

私のハートは愛で決壊した。

目の前のおばあちゃんに抱きつき、人目もはばからず子どものように泣いた。

 

今、思い出しても涙が出る。

途方もなく大きな愛。無条件の愛。それが人の形をしてそこにあった。

 

見ず知らずの、スペインの、丸顔の小さなおばあちゃんだ。

黒い服を着た、ぽっちゃりした、田舎のおばあちゃん。

私の涙を拭くその指はごつごつしていて、大地と生きてきた人のにおいがした。

 

 

イヴはそばに立って、泣きじゃくる私とおばあちゃんを黙って見ていた。

おばあちゃんが気付いて、私の体をイヴの方にそっと向けた。

イヴが私を促した。私はおばあちゃんから離れて涙を拭いた。

 

「グラスアス」としか言えなかった。何度も抱きついた。

 

おばあちゃんと別れて、カミーノをまた歩き出してからも、しばらく涙がとまらなかった。

イヴは何も言わなかった。ただ静かに歩いていた。

 

・・・涙がおさまった頃、私はポケットにキャンディーを見つけた。

バールに置いてあったのを、一つつまんできたやつだ。

緑色のそのキャンディーを、私はイヴに差し出した。

 

わたし「Pour vous(あなたへ)」

 

イヴは同じく自分のポケットに手を突っ込み、黄色いキャンディーを取り出した。

 

イヴ 「(私に差し出して)・・・jaune(黄色だよ)」

 

私たちは笑った。イヴが言った。

 

イヴ 「あの店のマスターは親切だった」

わたし「うん。親切だった」

イヴ 「彼は僕たちだけにケーキをサービスしてくれた」

わたし「うん。あれ不思議だった」

イヴ 「きっとあの人は僕たちのクレデンシャルを見たんだ」

わたし「・・・・・・」

イヴ 「彼らは本当のペリグリーノだ、と思ったんだよ」

わたし「・・・そうかぁ!」

 

美しい道が続いていた。

他のペリグリーノたちと後になり先になり、私たちは歩いた。

泣きやんだ後の私の体はすっきりしていて、赤ん坊のようにクリアだった。

 

互いに交換したキャンディーを食べながら、私たちは歩いた。

同じ道を同じ速度で、一緒に歩いた。

 

 

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