マルセイユの黒いマリア
マルセイユにて
南フランス、黒いマリア、マグダラのマリア。
振り返ってみると、この三つのキーワードが旅の間、ずっと巡っていた。
カタリ派というキーワードが加わったのは、旅の後半だ。
黒い肌の聖サラが祀られている、サント・マリー・ドラメールに行くこと。
マグダラのマリアが33年瞑想したという、サントボーム の洞窟へ行くこと。
去年のカミーノで知り合ったイヴに再会すること。
私の頭の中にあったのは、大きくその三つだった。
とはいえ、前半はエクサンプロバンスでホームステイしながら語学留学。
2週間だけだとしても、フランス語を学ぶという目的もあった。
ともあれ初日はパリで一泊。それからマルセイユへTGVで移動。
マルセイユの街で、私は最初に黒いマリアさまに挨拶したかった。
Abbaye St-Victor
旧港(Vieux-Port)を右に見つつ歩き、坂を登ると要塞のような建物が見えてくる。
元は4世紀に殉教した漁師の守護聖人ヴィクトールの廟。
その上に、聖者カシアンによって5世紀に建てられたフランス最古の修道院。
要塞化したのは14世紀。幾たびかの破壊と修復を経て、現在に至るという。
小さな入り口を開けて入ると、結婚式が行われていた。
見知らぬきれいな花嫁に、おめでとうと心で声をかける。
司祭の祝福の声を聞きつつ、私は2ユーロ払って地下のクリプトへ入った。
地下礼拝堂(crypte)は、地上とは真逆の死の世界。
薄暗くひんやりした墓所。
圧倒的に古い、ものすごい霊気。
マグダラのマリアのレリーフ、そして古い時代のいくつかの石棺。
黒いマリアさま(Notre -Dame de Confession)は壁の左側にかかっていた。
目が合った瞬間、地上からハレルヤの大合唱。
歓迎されたようで嬉しくなった。
「あなたに会いにきました。ここまで来させていただけたことに感謝します」
手を合わせて祈った。
Notre-Dame de la gard
続いて私が向かったのは、マルセイユのシンボルでもある大聖堂。
「守護の聖母」と呼ばれる聖堂は遠くからでもすぐわかる。
鐘楼の上に金色に輝くマリアさまを目指して坂を登っていけばいいのだ。
聖堂の中はたくさんの人で溢れていた。
なんと、このマリアさまも黒マリアだ。
天井から下がっている船の模型が美しかった。
大聖堂の上からマルセイユの街を見るパノラマ。
空に浮かんだ雲が、大きく手を広げて飛んでいるように見えた。
翌日はマルセイユからエクサンへバス移動。
バス乗り場を確かめておく。
同時に観光案内所でサントボーム への行き方を尋ねた。
「マルセイユからサントボームへ行きたいのです」
けれど帰ってきた答えは、「直行バスはない」「タクシーを使え」の二言。
まずオーバーニュまで列車で行き、そこからバスでSAINT ZACHARIEへ。
それからあとはタクシーを呼ぶしかないとのことだった。
別の行き方があるというのは知っていたから、本当はもっと聞きたかった。
でも案内係のお姉さんは、もうこれでおしまい、と冷淡そのもの。
この日は深追いせず、また後日調べ直そうと思った。
サントボーム へ行くのは、語学学校が終わってからだから、まだ余裕があった。
旧港ではしゃぐ子どもたち。
私もはしゃいでいたよ。
それでもジャンヌ・ダルクの像がある教会で、明らかにヤバいフランス人につきまとわれた。
完璧に無視したらいなくなったが、やはり警戒は必要だ。
当然ながら、カミーノ とは違う巡礼の旅なのだと実感した。