カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼14日目 カミーノは不思議な道だ、必要なことが必要な時に起こるように準備されている

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巡礼14日目 タルダホス → オンタナス

 

カミーノ巡礼道では小さな村でも教会があり、村の入口か出口には墓地がある。

 

「スペインの人たちはフランス人より信仰が厚い」フランス人のイヴは言う。

「フランス人はあまりミサに行かない。でもスペインの人たちは違う。

 同じカトリック教徒として、ぼくは感心する」

 

この日私たちが泊まったオンタナスも小さな村だったが、やはり教会があった。

噴水のある水場もあり、いかにも巡礼道の村という風情だった。

キッチンのあるアルベルゲを見つけて受付に入ると、ミニヨンとガイがいた。

ガイは松葉杖をついていた。

 

ガイ  「あたしたちは今日もバス移動。だから早いんだよ」

ミニヨン「このあとみんなも来るよッ。いつもの5人!」

ガイ  「あたしたちが先にベッドを予約して、食料を買って、夕食を準備するんだ」

 

ガイはキッチンに入って、場所を独占しはじめた。

一緒に食べるかとガイに聞かれたが、イヴも私も答えなかった。

 

5人のことは嫌いじゃないけど、また言葉のことで笑われるのは嫌だった。

それにうるさいのもちょっと勘弁だなと思った。

時間をずらして食べようと私は思った。

 

 

荷物を置いてベッドで休んでいると、一人の巡礼が入ってきた。

イブに英語で何かをたずねている。

イヴがフランス語で答えると、その巡礼もフランス語で返した。

妙なクセのあるフランス語だった。

イヴが私のことを紹介したので、フロム・ジャパンと私が言うと彼は、

 

「え? ジャパン? ってわたし日本人なんだけど」

 

と、いきなり日本語が返ってきた。それがKさんだった。

カミーノ14日目にして初めて会った日本人ペリグリーノだ。

 

「私はカミーノもう4回目。ベルギーに住んでいて、40年になります」

「息子と娘がいましてね、この先のレオンで、娘と会う約束をしています」

「24才で私、日本を出ましてね、料理の勉強をしにフランスへ渡りました」

「で、まあいろいろあってベルギー人の嫁さんに、プロポーズされて結婚したんです」

 

Kさんとはアルベルゲのバールで1時間くらい話をした。

久しぶりの日本語での会話は尽きることがなく、はずんだ。 

私はずっと話したかったプエンテ・ラ・レイナでの悪夢について、Kさんに話した。

Kさんはうなずいて聞いてくれた。

「カミーノは不思議な道です、必要なことが必要な時に起こるように準備されている」

Kさんはそう言った。

 

それから、私は一人で散歩に出た。

もう夜8時だというのに、スペインは明るい。

村は小さいからすぐに一巡してしまう。

農家の納屋のようなところに座って、持ってきていたお菓子とパンを食べた。

 

そろそろミニヨンたちは食事をすませただろうか?

もしまだだったら、キッチンは使えないなと思った。

 

アルベルゲに戻ってキッチンを覗くと、イヴがいた。

イヴは一人でパスタを食べていた。

そして私を見て穏やかに笑って言った。

 

イスラエル人の女の子が大量のパスタを作ってみんなにふるまってたよ」

「ぼくは食べなかったけど、みんな楽しそうだった」

「君は? 食べないの?」

 

イヴは私にパスタをとりわけようとした。

私は本当はお腹がすいていたけど、もう食べたからと言って断った。

イヴは私にお茶を入れてくれた。そしてオレンジを半分くれた。

彼と二人でいると、私はやっぱり心が落ちついてくるのだった。

静かに話していると、Kさんが顔を出した。

 

Kさん「あ、お邪魔?」

わたし「いいえ。全然」

Kさん「さっきここでみんなと食事していたんですよ。あなたもいたらよかったのに」

わたし「ミニヨンとガイたちですね?」

Kさん「そう、知ってる? ドイツ人とイスラエル人とオランダ人の5人」

わたし「はい。時々会ってるから」

Kさん「そうですか。・・・じゃ、私はこれで。またご縁があればお会いしましょう」

わたし「はい。またご縁があれば」

 

 

ベッドに戻って私は、明日のことについて考えた。

自分の巡礼について考えた。

私はイヴと一緒にいつまで歩くのか?

カミーノは、そもそも一人で歩く旅ではなかったか?

イヴは、私と歩きたいのだろうか?

私は・・・私は本当はどうしたいのだろう?

 

向かいのベッドに目をやると、イヴは携帯でメールをうっていた。

私は軽い気持ちで彼に聞いた。

 

わたし「家に連絡してるの?」

イヴ 「そうだよ」

わたし「ご家族はお元気?」

イヴ 「(悲しげに笑って)ぼくの父親はガンをわずらっていて、今病院にいる」

わたし「・・・そうなんだ」

イヴ 「サンチャゴに着くまで元気でいてほしいと願って、ぼくは歩いている」

わたし「・・・・・・」

イヴ 「どうしたの?」

わたし「イヴ。私のお母さんもガンをわずらっているの」

イヴ 「・・・・・・」

わたし「私もサンチャゴに着くまで、元気でいてほしいと願って歩いてる」

 

胸がつまって涙声になった。

私とイヴは、確実になにかがシンクロしている。

この道を一緒に歩くことはきっと、お互いにとって必然なのだ。

 

わたし「・・・(フランス語で)イヴ、明日も私と一緒に歩く?」

イブ 「Oui. Et toi?(君は?)」

わたし「Oui. Avec plaisir.(よろこんで)」

イヴ 「・・・(ほほえむ)」

わたし「Merci beaucoup, Yves. bonne nuit」

イヴ 「Bonne nuit」

 

カミーノは不思議な道だ、必要なことが必要な時に起こるように準備されている。

Kさんと昼間話した言葉が浮かんだ。 これでいい、まちがってない。

私は祈るように両目を閉じた。

 

 

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