巡礼18日目① コウノトリは幸せを運ぶ鳥です
巡礼18日目① テラディジョス → ブルゴ・ラネーロ
「Tu as bien dormi?(よく眠れた?)」
朝。起き抜けにイヴが私の頭を撫でながら聞いてきた。
え〜っと「よく寝た」は、J'ai bien dormi? 動詞はavoirでいいんだっけ?
私がまごまごしていると、さらに聞いてきた。
イヴ 「Tu ne te sens pas bien?(具合悪いの?)」
わたし「Non いや・・・Si」
イヴ 「Oui ou non?」
わたし「(めんどうになって)Ça va・・・bien dormi」
低い調子でかろうじて答えると、彼は満足したようだ。
私の頭を撫で撫でして去っていった。
なんなんだ、急に・・・。
寝起きにフランス語で奇襲かけるのはやめてほしい・・・。
アルベルゲを出て、約束もしていないのにイヴと一緒に今日も歩く。
イヴは上機嫌で、子供のように私の手を握ってきた。
日の出前。
金星が輝くほの暗い道を、二人手をつないでしばらく歩いた。
時々、知らないペリグリーノに名前を呼ばれた。
向こうは私を知ってるようだった。
たぶんカリヨンのミーティング効果だろう・・・。(はずかしい)
Y君が後ろから歩いてきた。
彼は私たちよりも巡礼期間が短いので、一日に歩くキロ数が多い。
挨拶を交わしたのち、彼は足早に私たちより先へ進んでいった。
もうこの巡礼で彼とは再会しない、私はそう感じた。
サムライのような、意志のある、姿勢のいい後ろ姿が光の中に消えていった。
サアグーンのカフェでは、Kさんと再会した。
山越えする前にレオンの案内所で情報を集めておいた方がいいですよ、と言われた。
山越えか・・・。
私には一つ、気がかりなことがあった。
少し前、ストックを教会に置き忘れてしまっていたのだ。
しばらくは平地が続いたので杖なしでも良かったが、
さすがに山越え前には欲しかった。
「レオンで買えるよ、大きな町だから」とKさんは言った。
その日の宿泊地は、ブルゴ・ラネーロ。
小さな町の教会の屋根に、大きなコウノトリの巣があった。
一羽・二羽・三羽・・・。ゆうゆうと大きな翼を広げて飛んでいた。
ドキドキした。私もイヴも興奮して写真を撮りまくった。
アルベルゲのオスピタレイロはイタリア人だった。
私がCigogne(コウノトリ)を見たというと、彼は答えた。
オスピ「私の国にはコウノトリがベイビーを運んでくるという言い伝えがあります」
わたし「日本にもあるよ、同じ話!フランスにもあるって!」
オスピ「(笑顔で)そうですか」
わたし「イタリアにもあるんだ!スペインもあるかな!きっとあるね!」
オスピ「コウノトリは幸せを運ぶ鳥です」
アルベルゲの玄関前に、一匹の猫がいた。
みゃーみゃーないて、私にまとわりついて離れない。
椅子に座ると、膝の上にのってきて寝てしまった。
やさしく頭を撫でると、ぐるぐるとのどを鳴らした。
「かわいいなあ・・・あったかいなあ・・・」
「きもちいいなあ・・・しあわせやなあ・・・」
猫を撫でながら、私はつぶやいた。
本当にきもちよくって、しあわせだったのだ。
猫の重みと温もりを感じながら、私は関西弁で何度もつぶやいた。