Etape18 Vers ~ Labastide-Murat
Etape 18 Vers ~ Labastide-Murat 24km
この日、ラバスティッド・ミュラーに到着するまでに会ったのは4人だけ。
反対方向から来た二人の巡礼と、羊飼いのばあちゃんと、「ひふみん」だ。
もちろん将棋の「ひふみん」本人ではない。でもものすごく似ていたのだ。
丸顔で頬が紅くて、超カワイイ笑顔のおじいちゃんだった。
私が道を確認していたとき、彼は車でやってきて止まってくれた。
そして満面の笑顔で道を教えてくれた。
「どこから来たの? 何日歩いてるの? 今日は何キロ歩くの?」
「ひゃーすごいねえ〜! ウヒャウヒャウヒャ(と笑う)」
「僕ね、このコミューンに住んでるの。車で散歩中」
「前は自転車で1000キロ走ったんだよ〜! ウヒャウヒャ」
運転席の「ひふみん」は、私の「腕抜き」にも興味津々だった。
そう、私は「腕抜き」を両腕に装着していたのである。
「腕抜き」。これは100均で買える画期的な巡礼用品(?)だ。
暑くなったらサッと脱いで半袖になれるし、日が陰ったら長袖になる。
軽いしすぐ渇くし良いことづくめなのだ。
私が腕抜きをとったり外したりして見せると、「ひふみん」は感嘆した。
GR 46 苔むす森の道
GR 46。苔むした異界の巡礼道。鳥の声しかしない。誰もいない。
まっすぐ行って左へ曲がる
行っちゃダメ!
私は昨日、宿でみんなが喋っていた一人の巡礼を思い出していた。
野宿しながらプラハから3000キロ以上歩いている巡礼がいるというのだ。
彼はお金を持ってないから、出会った人に食べ物をもらっているという。
私も、どこでだったか忘れたが、不思議な青年とすれ違っていた。
ボロボロの赤いセーターを着て、手ぶらで巡礼道を歩いていた。
挨拶だけしてすれ違った。(危険なオーラを感じた)
夢見るような目つきで、トロンと歩いていた。東欧風の瞳だった。
彼かも知れない、と私は思った。
フランス人の道を歩いた時もチェコの巡礼と出会ったが、彼も野宿していた。
やっぱり夢見るような目つきで、ゆっくりゆっくり歩いていた。
それにしても無銭巡礼なんて・・・。もはや「旅」ではない、「放浪」だ。
だんだん思考することもなくなってくる。
景色に同化して、ただ歩いている体があるだけになる。
この小さな集落で、羊を放牧するおばあちゃんに会った。
羊が放たれて一筋の道のように走っていくのを私は初めてみた。
感動モンだった。
そしてまた誰一人いない道を行く。
地面は柔らかく、空気は湿っている。
土と木々の匂いに包まれて、ただ歩く。
・・・私も景色の一部であった。
『Le Savitri』
この日の宿はVersのオーナーが予約しておいてくれた『Le Savitri』。
管理者はヴェロニクという女性。
気さくな明るいおばちゃんだった。
普段は役所に勤めていて、ここには住んでないそうだ。
二階にあるドミトリーは一見、ダニがいそうなベッド。(いなかった)
使い古されたシーツやタオルが山と積まれていた。(でも清潔)
狭いキッチンには、凹んだ鍋やバラバラのカトラリー。(ま、問題なし)
常備してある調味料や食料品は賞味期限を要確認。(OKだった)
普通だったら泊まらないかもしれない古い宿。(だがここしかない)
今夜は一人と思っていたら、夕方にフランス人の四人組がやってきた。
奥のスペースに陣取り、一つしかないラジエーター(暖房)を奪っていった。
仕方がないから毛布を沢山使って夜の寒さに備えた。
いよいよ、明日はロカマドールだ。
黒いマリア様に会えると思うと、胸が躍った。