カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼16日目① 時々、人生はとてもひどい。でも、それでも世界は美しい。

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巡礼16日目① ボアディジャ → カリヨン・デ・ロス・コンデス

 

「Regarde, ・・・cigogne!(見てごらん、コウノトリだよ!)」

 

カリヨンへ向かう途中、イヴが私の肩を引き寄せて言った。

教会の屋根の上に、コウノトリの巣があった。

二人立ち止まって、しばらく眺めていた。

 

 

巡礼道を歩きながら、あれこれ質問する私に、

イヴは簡単なフランス語でいろいろなことを教えてくれた。

花の名前、木の名前、鳥の名前、雲の名前。天候。町の由来。

私は忘れないように、スペルをノートに書き留めた。

 

毎朝、昇ってくる朝日に手を合わせて、歩いた。

金星がまたたく淡い夜を破って、太陽はさんさんと昇ってきた。

スペインの空はみるみる青くなる。

視界をさえぎるものがない、美しい道。

頭の中を支配していた思考はいつしか落ちて、

ただ歩くことだけが起こっていた。

 

 

イヴと私は歩く速度が同じだったから、お互いに気を遣わずにいられた。

休みたいと思うタイミングも不思議と同じだった。

泊まりたいアルベルゲの好みも、ルートの選択も同じ。

違うのはバールで頼む飲み物だけ。

私はコラカオ(ココア)か、カフェコンレチェ(カフェオレ)。

イヴはビールか、エスプレッソだ。

 

 

時々、イヴの携帯電話が鳴った。決まって友達のニコラからだった。

仲がいいんだね、と私が言うと、イヴはうなずいた。

そして少し間を置いてから、言葉を続けた。

 

イヴ 「ニコラは隣人だ。僕が旅に出たことをよろこんでいる」

わたし「うん」

イヴ 「彼は一人で住んでる。

    最愛の奥さんを事故で亡くしたんだ。

    結婚式を挙げた当日に・・・」

わたし「・・・・・(立ち止まる)」

イヴ 「結婚式の日。庭で盛大なパーティーをして、みんなでお祝いをした。

    それなのにその夜、奥さんは近くの川で溺れて死んだ。

    警察も来て調べた。でも何があったのかわからない」

わたし「・・・・・・」

イヴ 「それからずっと、ニコラは一人で暮らしてる」

わたし「・・・・・・」

イヴ 「・・・どうしたの?」

わたし「(言葉を探しながら)時々・・・」

イヴ 「時々?」

わたし「・・・時々、人生は・・・とても、ひどい」

イヴ 「・・・(うなずく)」

わたし「でも、それでも、世界はとても、美しい」

イブ 「(ほほえんで)Optimiste・・・!(楽天家だね)」

わたし「Optimiste!  そう。・・・C'est la vie(それが人生だ)」

イヴ 「・・・C'est la vie」

 

 

カリヨンではサンタ・マリア教会に隣接したアルベルゲに泊まった。

親しみやすい丸顔のシスターがいて、友達のように話しかけてくれた。

 

シスター「18時から巡礼者のミーティングがあるから参加しない?

     みんなで歌を歌うのよ。(天使のような声で)ウルトレーヤー♪」

わたし 「すてき! 歌いたい! 参加する〜!」

シスター「19時から教会でミサがあるから。それが始まるまでの時間ね」

 

私はシャワーと洗濯をすませて部屋に戻った。

すると、ミニヨンとガイたちがいた。

また会ったね、と互いに言いあった。

 

同じ部屋に、腰を痛めている女性のペリグリーノがいた。

辛そうな顔でストレッチをしている。

彼女は実は、昨日もアルベルゲで一緒だったのだが、話すことはなかった。

その時もアンニュイな顔つきで、一人で本を読んでいた。

人と交流することをあきらかに避けているようだった。

だからこの時も、私は挨拶しなかった。

 

 

外へ出ようと受付の前を通りかかった時、シスターに名前を呼ばれた。

振り返ると、日本人の男の子が座っていた。

「彼女も日本人よ」とシスターが私のことを彼に紹介した。

 

「オラー」

「オラー」

 

日本人同士なのにスペインの挨拶を交わした。(巡礼だもの)

それがカミーノで私が出会った二人目の日本人、Y君だった。

 

Y君 「グラニョンの教会で(巡礼者が書く)ノートに文章を書いてませんでした?」

わたし「グラニョン・・・(思い出して)あ、あ〜書いた書いた書いたッ!」

Y君 「僕が泊まる一日前の日付で、女の人の名前で、日本語だったから。

    どこかで会えるんじゃないかって思ってた」

 

イレーヌの言葉に従い、辿り着いたグラニョン・・・。

道をまちがえ、嵐に遭った試練の一日・・・。

あそこの教会で祈って、そこのノートに言葉を書いたことが縁となり、

今日に繋がっているのだと思うと感慨深かった。

  

18時。ペリグリーノ・ミーティング。

これがまぁ感動的で、エキサイティングな時間だったわけですが・・・続くなのじゃ!

 

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