カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼29日目 君たちはここで僕の作った料理を食べるか、外で食べるかだ。

f:id:parasuatena2005:20180329205255j:plain

 

巡礼29日目 ポルトマリン → パラス・デ・レイ

 

「僕はアルベルゲにナイフを忘れてきた」

 

イヴが言った。でもポルトマリンまではもう引き返せなかった。

 

今日もたくさんのペリグリーノとすれ違う。

先生に引率されたスペインの中学生?

犬を連れた巡礼。子ども連れ。

生後半年の赤ちゃんを抱いた家族までいた。

 

前を歩く二人の女の子が歌を歌っていた。

サザンの『TSUNAMI』だ。おお、日本人。

 

話しかけると二人は姉妹で、サリアから歩きはじめたばかりだという。

私がもう一ヶ月歩いていると言うと「お疲れさまです」と返ってきた。

お疲れさまかい・・・。二人の歌は続いた。

 

イヴ 「なんの歌?」

わたし「TSUNAMI

イヴ 「・・・・・・」

      間

イヴ 「(眉間にしわを寄せて)FUKUSHIMA?」

わたし「Non Non!」

イヴ 「?」

わたし「説明できない」

   

パラス・デ・レイは商店が充実していてレストランもたくさんあった。

私たちはキッチン付きのアルベルゲへ行ったが、すでに予約で満員だった。

4月初旬。アルベルゲ争奪戦が始まっていた。

 

別のアルベルゲへ行ったら、まだ閉まっていた。

イヴのガイドブック情報によると、そこもキッチンがあるはずだった。

私たちはアルベルゲの玄関前にリュックを置いて、スーパーへ繰り出した。

 

戻ったら、すでに受付は始まっていた。若い女の子たちのグループがいた。

いかつい顔のオスピタレイロが、私たちに言った。

 

オスピ「キッチンは17時から僕が使う。ペリグリーノの料理を作る」

わたし「はい」

オスピ「君たちはここで僕の作った料理を食べるか、外で食べるかだ」

イヴ 「僕たちはこんなに買い物をしてきてしまった」

オスピ「・・・・・・」

わたし「食事の準備が終わってから、キッチン使えますか?」

オスピ「・・・(軽くうなづく)」

イヴ 「どうする?」

わたし「うん(泊まる)」

 

17時より前に食事を作るのは早すぎた。

食事はどうする?とまたイヴがきいたが、私は答えなかった。

 

この日、私はイヴに少しいらだっていた。

体調があまり良くなかったこともあり、イヴも少しいらだっているようだった。

言葉がちゃんと通じ合えないもどかしさ。距離が近いことからくる慣れ。

そばにいる人だからこそ大事にしたいと思うのに、どんどんぞんざいになっていく。

   

わたし「おなかがすいた」

イヴ 「・・・・・・」

 

20時過ぎても、階下のキッチンではにぎやかなディナーが続いていた。

オスピタレイロが若い巡礼たちと話に花を咲かせているのだ。

いつになったら私たちは食事ができるのだろう? 私はイライラしてきた。

 

イヴ 「何時に僕らはキッチンが使えるんだろう」

わたし「・・・(自分できいてこい、と思っている)」

 

私はキッチンへ降りて行って、みんなの前でオスピタレイロにきいた。

 

わたし「キッチンは何時から使えますか?」

オスピ「これから僕は彼女たちと話をする。その話が終わってからだ」

 

イヴもお腹がすいていたはずだ。ずっと横になっていた。

私はオスピタレイロの言葉をフランス語で伝えた。イヴは頷いた。

 

階下ではオスピタレイロがストーリーテラーとなり、カミーノにまつわる話をしていた。

その朗々たる声が二階のベッドまできこえていた。拍手の音も聞こえた。

22時前だった。私は降りて行ってきいた。

 

わたし「キッチン使えますか?」

オスピ「これから片付ける。待って」

わたし「あなたの話はとてもおもしろそうだった。聞けなくて残念です」

オスピ「・・・(うなずく)」

 

オスピタレイロが悪いわけではない。でも私は腹が立っていた。

私たちがキッチンへ行ったら、冷蔵庫の電源は抜かれ、テーブルクロスは剥がされた。

夕食をすませた若い巡礼たちは、満足そうに二階のベッドへあがって行った。

 

オスピタレイロは、一人の女の子の足のマメのケアをしてあげていた。

彼は親切なのだ。そして、自分の仕事に使命感を持っているのだ。

この条件でもいいと言ったのは、私たちなのだ。彼は正当だ。文句は言えない。

でも、でも、でも・・・。私はなんともいえない憤りを感じていた。

 

22時半に消灯だと言われた。短時間で食事をすませなければならなかった。

私たちは無言で、大急ぎでパスタを食べた。

二階に戻るとみんなもう寝ていた。

私とイヴはみんなを起こさないように、静かにベッドに入った。

 

夜。珍しくイヴがいびきをかいていた。

その音がうるさかったらしく、女の子の一人がスペイン語で文句を言った。

そしたら他の子たちも笑った。

言葉はわからないが、イヴのことをからかっているようだった。

私は悲しかった。なかなか眠れなかった。

 

f:id:parasuatena2005:20180329115758j:plain

 

もしも私たちが食事付きでここに泊まっていたら・・・。

私たちはこのアルベルゲを「最高だ!」と思ったかもしれない。

いかつい顔のオスピタレイロの親切に、感動したかもしれない。

 

私はざらっとしたものを感じ続けていた。

感謝を忘れていく自分がいやだった。

自己嫌悪でいっぱいになって、目が冴えてきた。

 

夜が、長かった・・・。

 

 にほんブログ村 旅行ブログ スペイン旅行へ
にほんブログ村