カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼20日目② 世界は別れに満ちている。だから今そばにいる誰かを大切にしたくなる。

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巡礼20日目② ビジャル・デ・マサリフェ

 

そのアルベルゲの壁には、各国のペリグリーノたちの言葉が書かれていた。

男女で部屋が別れていたので、イヴと私は初めて別々になった。

二階の奥は改装中らしく、工事の人たちが行ったり来たりしていた。

 

「あとで一緒に夕食を食べよう」

 

私はイヴと約束した。

実はこの時まで、イブと食事の約束をしたことはなかった。

たいがい勝手に作って勝手に食べていたのだ。

朝も同様、朝食の約束をしたことはなかった。

ただ、向かい合わせのベッドに寝ていて、起きるのもほぼ同時だったというだけ。

なんとなく同じ時間に朝食を食べ、なんとなく同じ時間に出発していたのだ。

 

 

18時。アルベルゲの小さなキッチンで、小さな夕食を二人でとった。

トマトパスタとサラダとチーズとワイン。

食後にイヴはコーヒー、私はマンサニージャカモミール)。

食堂がついているアルベルゲだったから、大抵の巡礼はそっちで食べていた。

 

イヴと一緒にパスタをシェアしたのも、この日が初めてだった。

お互いの心の距離が近くなってきていた。

 

さて。

この時、私にはどうしても手に入れたいものがあった。

数日後の山越えのために、杖(ストック)が欲しかったのだ。

大都市レオンは通り過ぎてしまったから、次のチャンスは明日行くアストルガだった。

ガウディの建築がある、ちょっと大きな町だ。そこならきっと売っている。

問題は何時に着くかだった。

スペインはシェスタの時間に店がクローズしてしまうのだ。

 

マサリフェからアストルガまでの距離は31.5キロ。

いつも通り7時半に出たとして、14時前に着くかどうかは、きわどい・・・。

バールで昼食をとる時間を入れたら、間に合わない可能性が高い。

 

私はイヴに相談した。

「どう思う? 私は杖が欲しいから、がんばって歩きたい」

こうした質問に対するイヴの答えは決まっている。

「Comme tu veux(お好きなように)」

 

では、明日の朝7時にここで朝食、と私たちは約束した。

 

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アルベルゲの壁には、たくさんの思いが綴られていた。

その中に私は、日本語を見つけた。

そこに書かれた言葉は、ダイレクトに私の心を打った。

 

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私はイヴを探して階段を下りた。

イヴはベンチに座って本を読んでいた。

私は今日、カミーノを歩きながらずっと思っていたことを、イヴに伝えた。

 

「J'ai décidé. Je marche avec toi jusqu'à Fisterra.

(私は決めた。フィステーラまで君と一緒に歩く)」

 

 

一日30キロ歩けるなんて、最初は思ってもいなかった。

でも今、イヴと一緒なら、軽々と歩けてしまっていた。

私は自分で思ったよりも健脚だった。

このペースで行くと、私が計画していた日程よりも三日早くサンチャゴに着く。

サンチャゴからフィステーラまでは歩いて三日間。バスで行くより冒険的だ。

それにイヴとのフランス語教室をもう少し、私は続けたくなっていた。

 

 私の稚拙すぎるフランス語を、彼は耳を傾けてきいてくれた。

たいてい、穏やかにほほえみながら。

巡礼はいつか終わる。どっちにしても別れるのだ。

それならば、フィステーラまで限りある日々を、イヴと歩こう。

私はそう決めた。

 

 

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