巡礼26日目① 牛や馬が普通にガンガン通り過ぎて行く。どんなにがんばっても、糞を踏まずに歩くことはできない。
巡礼26日目① オスピタル → サモス
オスピタルを出てしばらく歩くと、山道は下りになった。
途中にあった村のティエンダ(売店)で、お気に入りの手袋をようやくゲット。
本体と手の甲だけの部分に別れるタイプのもので、
パステルピンクと水色のコンビネーション。
かわいくて嬉しい。気に入って、温かくなってもずっとはめていた。
ポンフェラーダで買った〝しもやけの薬〟は結局捨ててしまった。
効き目が強すぎて余計ひどくなってしまったのだ。
「太陽が一番の薬だ」とイヴは言っていた。本当にその通り。
トリアカステーラからサリアに向けて、道が二本に別れていた。
私たちはサモスを経由する距離の長いルートを選んだ。
サモスには修道院があるという。そこに行きたかったのだ。
サモスへ行く道は他の巡礼が誰もいなかったこともあり、静かだった。
栗の木が多く生えていた。イヴは落ちている実を拾って、私にくれた。
ガリシア州に入ってからの山道は、どことなく熊野古道に似ていた。
わたし「(川を覗き込んで)サカナいる?」
イヴ 「寝てる」
わたし「(笑って)シェスタ? 日曜日だからね〜」
間
わたし「ねぇイヴ、私と一緒にいて、疲れない?」
イヴ 「全然。・・・僕たちは歩く早さが同じだからね」
わたし「ひとりで歩きたかったら、行ってね」
イヴ 「君は? 一人で歩きたい?」
間
わたし「全然」
サンチャゴにどんどん近づいてきていた。
あと何日、イヴと一緒に歩けるのか。
一緒にいられる時はわずかだ。一日一日を大切にしようと思った。
牛や馬が普通にガンガン通り過ぎて行く。
どんなにがんばっても、糞を踏まずに歩くことはできない。
緑。緑。緑。あんまり緑が美しい。
青。青。青。あんまり空が美しい。
まだ町に辿り着かないのかとちょっと不安になったとき、黒い屋根が見えてきた。
イヴ 「みえたよ!」
わたし「まだみえない〜!」
イヴ 「修道院」
わたし「(日本語)だから身長差があるからッ! もう少し歩かないと私は見えないのッ!」
町や集落が見えると嬉しかったが、同時にさびしくもあった。
静かな山道が終わってしまうからだ。
誰もいない山道がずっと続けばいいのにと、私はときどき思っていたのだ。
でも道がある限り、どこかの町に辿り着く。
町と町をつなぐために道はあるのだから。
わたし「昔のペリグリーノは大変だったね」
イヴ 「?(私のフランス語がよく理解できない)」
わたし「昔の、ペリグリーノ」
イヴ 「・・・・・・」
わたし「黄色い矢印もなかった。星とか太陽を頼りに、彼らは歩いた」
イヴ 「誰かが歩いたから、道がある」
わたし「・・・(うなずく)」
間
わたし「今の巡礼の必需品は、スマホだね!」
イヴ 「Wi-Fi」
わたし「チョコレート」
イヴ 「・・・(ポケットからチョコレートを出して私にくれる)」
わたし「(日本語で)やったあ〜! ちょうど食べたかったの!」
修道院は見えたけど、辿り着くまでまだ距離があった。
私とイヴはまっすぐにサモスへの道を下って行った。