CARCASSONNE ① ただ「見る」ことが起こるために、体はここまで来た。
CARCASSONNE
カルカッソンヌの駅に着いたのは、もう19時をまわっていた。
「城塞都市シテ」までは歩いて30分。
バスで行こうと思ってバス停を探したが見当たらない。
ほとんど人がいない駅で、インフォメーションにいたSNCFの係員に聞いた。
わたし「(フランス語で)シテ行きのバス停はどこですか?」
係員 「・・・(無視)」
間
わたし「シテ行きのバス停は」
係員 「!!!(ものすごいスピードのフランス語で一気に喋る)」
間
わたし「・・・(理解できず、あっけにとられる)」
係員 「・・・!(すごい荒い鼻息。あきらかに苛立っている)」
係員のおじさんは、ものすご〜〜〜く機嫌が悪かった。
自分の苛立ちを、八つ当たりするように私にぶつけてきた。
〝お客様は神様〟の日本ではないので、こういうこともある。
とはいえ、気分悪い&ちょっと怖かった。
とはいえ、わからないのは困るので恐る恐る、同じことをもう一度聞いてみた。
すると係員は無言で、後ろの引き出しから乱暴に地図を取り出し、私に突き出した。
わたし「め・・・メルシーボクう」
私は歩いてシテまで行くことにした。
歴史的城塞都市シテ
途中、観光案内所は閉まっていたが、地図があれば大丈夫だ。
私はどんどん歩いて行った。
と、橋からの美しい夕景に思わず立ち止まる。
城も予想を超えて見事だ。
さすが世界遺産・・・。
どんどん濃さを増していく空のブルー。
お城のとんがり屋根のシルエットがくっきりと映えていた。
30分もかからず到着したシテ城内。
予約していたユースホステルは、城のすぐ目の前だった。
CHATEAU COMTAL
翌朝、開門と同時に城内へ入る。
ユースホステルのチェックアウトが11時だったので、超速で見学。
誰よりも早く歩き回り、美術品を展示してある空間に入った。
朝一番の空気が、ぴいんとみなぎっていた。
誰もいない。
静かで、きれいすぎて、怖いくらいだった。
無造作にともいえるような展示で、飾られているオブジェたち。
初期キリスト教時代の彫刻や石棺。
その一つ一つが無言ながら、圧倒的な存在感と威圧感で私に語りかけてきた。
おそらく。
観光客が他に一人でもいたら、この空気感は損なわれただろう。
古い時代から何かを見続けてきたオブジェたちのささやき。
その名残が空間に刻まれているのがはっきり感じられた。
朝一番の魔法。ギフト・・・?
不思議なことに、私は嬉しくなってきた。
大声で叫びだしたくなった。
古い友達に偶然あったような懐かしさと親しさが、ぐわんとこみ上げてきた。
カルカッソンヌに来るつもりなどなかった、とは言ったものの。
来るつもりなど全くなく来てしまう場所など、実はないのだろう。
カミーノの黄色い矢印のように、辿るべき道を示す案内のワードはもらっていた。
ふと耳にした「カルカッソンヌ」に興味があったのは事実なのだ。
目の前の彫像たちは、大声で(非言語で)私に何か伝えていた。
私は「見る」ことで、それらと対話した。
一瞬一瞬の「見る」という体験。それがすべてだった。
彫像たちが「私を見た」のか、「私が見た」のか。
どちらでもなくどちらでもあった。
ただ「見る」ことが起こるために、体はここまで来たのだ。
体験が起こることで、遠い過去に縛り付けられていた何かが消えていった。
石壁の間から差し込む、眩しいほどの朝の光。
・・・祝福のようだった。
CATHARES
城内の見学を終えると、売店へ出た。
そこで私は気になる本を見つけた。
表題には 「CATHARES (カタリ派)」と書かれていた。
これだ・・・と、思った。
古い記憶の糸の一端にカチッと触れた気がした。
黒いマリアとマグダラのマリア巡礼の終わりに、ここにいることは偶然じゃない。
このキーワードは私の胸を確かに打った。