カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

Etape10  Conques ~ Livinhac-le-Haut②

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Etape10  Conques ~ Livinhac-le-Haut  23,5km②

 

犬に噛まれた血まみれの足で歩き続けた。頭の中で妄想するのは悪いことばかり。

・・・歩けなくなったらどうしよう。

 

ジットについたら、何より先に消毒だ。

désinfection(消毒)という単語を忘れないように繰り返した。

そして本気で神に祈った。

 

「神さま ヤコブさま 私を歩かせて下さい!」

 

 

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・・・と、前方に二人の巡礼が歩いているのが見えた。

あの後ろ姿は、ベルナールとジャン・ピエールだ!

私は思わず叫んだ!

 

「Mes amis〜!(トモダチ〜!)」

 

 二人は振り向いた。私は駆け寄り、単語を駆使して自分の状況を説明した。

奇跡的な再会。しかも二人に追いついたその場所は、聖ロクスのチャペルだった。

ベンチも水場もある。神さまは、祈りを叶えてくれたのだ。

 

La chapelle St-Roch

 

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二人と会って安心し、子供のように私は泣いてしまった。

ピエールが傷口を水で洗い、赤チン(rouge)を塗ってくれた。

ベルナールは私の前にしゃがみ、べらんめえのフランス語でゆっくり言った。

 

「この傷なら問題ねえぞ。俺も犬に噛まれたことがあるからわかる」

「大丈夫だ。これから、青くなって、腫れる。でも、そしたら治る。問題ねえ」

 

ベルナールの言葉がしみて、私は心から安心した。

 

ベルナール「ジットについたら氷をもらえ。冷やせ。早く寝ろ」

わたし  「(復唱)氷。冷やせ。早く寝ろ」

ピエール 「宿はどこ?」

わたし  「・・・(メモを見て)A chacun son chemin」

ピエール 「(ベルナールに)俺たちとは別だ。(私に)同じジットに来る?」

わたし  「ノン。問題ない。ここに泊まる。・・・ありがとう!」 

 

わたし  「私、サンチャゴ(ヤコブ)様に祈ったの。助けて下さいって」

ベルナール「・・・」

わたし  「そしたら、あなたたちがいた!」

ベルナール「じゃ俺も祈ろう」

わたし  「?」

ベルナール「(両手を組んで天高くあげて)主よ、MIKIの傷を早く治し給え!」

わたし   「!!!(爆笑)」

 

それから私たちは、目の前にある聖ロクスの教会に入った。

私は聖ロクスにも感謝した。

 

ベルナール「(聖ロクス像を指差して)これはサンチャゴじゃねえぞ」

わたし  「知ってるよ!」←でもこの時は、聖ロクスが誰か知らなかった。

 

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入り口にある地図を見て、ベルナールがある地名を指差して言った。

 

ベルナール「あいつ(ジャン・ピエール)はここから来た」

わたし  「Montauban。モワサックの近くだ」

ベルナール「(うなづく)」

 

この時、ベルナールの住んでいる場所の地名も聞いたのだが、忘れてしまった。

ルピュイ近くの、小さな、聞いたことのない地名だった。

ベルナールは4人の孫がいるおじいちゃんだ。

もっと言葉が話せたら、その人生のドラマを聞いてみたかった。

 

A chacun son chemin

 

この日、泊まったジットも最高だった。

まだ新しい宿で、宿泊者は私で33人目。日本人はもちろん初めて。

 

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オーナーのジャン・マリとエルディーは親切で、傷口に包帯も巻いてくれた。

そして観光案内所と警察に、野犬が出没したことについても報告してくれた。

これから来る巡礼が同じ目に遭ったらいけないから、とエルディーは言った。

 

彼女は、私が疲れて仮眠をとってる間に、洗濯物も取り込んでくれていた。

五本指ソックスの指の部分が、一つ一つひっくり返されていて感動した。

食事の時、私は二人とたくさんのことを話した。今日あったことや日本のことなど。

言葉はあまり通じなかったけど、心は通じた。今でも通じている気がしてならない。

あの時間には愛が満ちていた。時空を超えて愛は、私たちを繋いでいる。

 

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この日は個室を選択。かわいい部屋だった。

f:id:parasuatena2005:20200104191005j:plain ルームソックスのサービス付き。

 

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L'église Saint Adrien

 

仮眠した後、少しだけ散歩に出た。まだ日は高く、風が強かった。

リヴィニャックの聖堂は誰もいなくて、感謝を捧げるには最高だった。

 

その後、近くのジットの庭で洗濯物を干しているベルナールを発見した。

その隣にいたのは、見覚えのある小柄なフランス人。

コンクで一緒だった「ひがんだ」感じのフランス人青年だ。彼は私を無視した。

 

ベルナール「おう、MIKI、落ち着いたか?」

わたし  「うん。ちょっと寝た」

ベルナール「いい宿か?」

わたし  「いい宿だ」

ベルナール「氷もらったか?」

わたし  「うん。包帯も巻いてくれた。みんな親切」

ベルナール「よかったな!(と、パンツを干す)」

 

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夜。ジットの部屋は静かで、自分の部屋にいるような安心感があった。

宿泊者は私一人だけ。

 

目を閉じて、午前中にあったことも思い返した。

道を間違えて親切な一家に助けてもらったこと。

若いフランス人パパと日本語で話をしたこと。

盛り沢山の一日だった。

でも、トラブルとは恩寵の一つの形なのかもしれない。

 

一生忘れないだろう。

神さま、ありがとうございます。

 

gite-achacunsonchemin.com

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