カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼18日目② Camino is international! Camino is Babel!

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巡礼18日目② ブルゴ・ラネーロ

 

「I love coffee! Life is coffee!」

アルベルゲで一緒になったイタリア人ペリグリーノはコーヒー片手に熱く語った。

彼はコーヒー・ディプロマだという。

「Coffee is art. Coffee is love!」

「君は知ってるかい、HARIOの素晴らしさを。日本のHARIOは最高だ」

 

 

そのアルベルゲでは、昨日友人になった韓国人のキムさんとも再会。

キムさんは若い韓国人の巡礼三人と一緒に食事を作って食べていた。

韓国人巡礼はキッチンでよく料理をする。

彼らは一人で旅していても、同じ国の者どうし集まって食事するようなのだ。

その時もみんなで作って、家族のように分けあって食べていた。

 

その中の一人、若いキムくん(やっぱりキムなのだ)は日本語ができたので話をした。

 

わたし 「日本語上手だね」

キムくん「去年まで日本に留学していました」

わたし 「へ〜、どこに住んでいたの? 東京?」

キムくん「沼袋です」

わたし 「沼袋・・・って、渋いとこだね」

キムくん「(笑って)いいところです。僕は日本、大好きです」

わたし 「ありがとう〜」

キムくん「質問、いいですか?」

わたし 「はい」

キムくん「(箸を使う仕草をしながら)食べながら『うまい』と、日本語で言います」

わたし 「・・・うん」

キムくん「でも、『うまい』は『上手』の意味です。同じ使い方でいいですか」

わたし 「そうだね〜。『うまい』は『おいしい』という意味があるから」

キムくん「おいしい」

わたし 「そう。でも『うまい』は乱暴な言い方。『おいしい』を使った方がいいよ」

キムくん「気になっていたことでした。ありがとうございます」

 

 

キムさん(昨日一緒に食事した)とも話をした。

といっても私も彼も、できない英語で話すしかないのでメチャクチャだ。

そこにフランス語しか喋らないイヴが混ざり、さらにメチャクチャな会話になった。

私がイヴのフランス語を英語に訳し、キムさんの英語をフランス語に訳すという暴挙。

そばで聞いていたイタリアーノがたえかねたらしく、時々通訳してくれた。

 

わたし   「(イタリアーノに)Grazie!!」

イタリアーノ「Camino is international!(スペイン語で)Gracias!」

わたし   「(キムさんに)カムサハムニダ!」

キムさん  「Thank you!Thank you!」

わたし   「(イヴに)Merci beaucoup」

イヴ    「(日本語で)ARIGATO!」←ひそかに覚えたらしい

イタリアーノ「Camino is international! Camino is Babel!」

 

 

夕方。(といってもまだ明るい)

アルベルゲの庭に出ると、洗濯場でじっと立っているヒゲの巡礼がいた。

洗濯したいのに、誰かの洗濯物が残っていて使えず、困っているようだった。

私の姿を見ると、彼は響きのあるバリトンの声で言った。

 

ヒゲ 「(洗濯場を占領している靴下とTシャツを指して)これ君の?」

わたし「ノー」

ヒゲ 「・・・・・・」

わたし「(日本語で)出しちゃえば?」

ヒゲ 「(真顔で)きっと、このペリグリーノは洗濯途中で寝てしまったに違いない」

 

そこに明るい声で陽気な巡礼がとびこんできた。

 

陽気な巡礼「オー!洗濯物がもう乾いている!最高だ!(と、私に笑いかける)」

わたし  「・・・」

陽気な巡礼「こんなに早く乾いたのは初めてだ!今日は最高だ!ボクはラッキーだ!」

わたし  「(冷静に)ユーアーラッキー」

陽気な巡礼「君、韓国人?」

わたし  「日本人」

陽気な巡礼「トーキョー?」

わたし  「トーキョー」

陽気な巡礼「ボクはヨコハマに行ったことがあるよ!ヨコハマ最高〜!」

わたし  「あなたは・・・アメリカ人?」

陽気な巡礼「カルフォ〜ルニア!(Tシャツを顔にすりつけながら歌い出す)♪〜」

 

ヒゲの巡礼はまだ洗濯物を睨み続けていた。

わたしは水場からバケツを持っていって彼に差し出した。

 

わたし「(ジェスチャーしつつ日本語で)それ、ここに入れたら?」

ヒゲ 「・・・(バリトンのいい声で)Danke」

 

どうやら彼はドイツ人らしかった。なるほどと思った。

だんだん人柄をみて、どこの国の巡礼なのかわかるようになってきた。

カミーノ・イズ・バベル。多種多様。本当におもしろい。

 

 

四人部屋のベッドに戻ると、私とイヴの他にもう一人、女性の巡礼がいた。

なんと、またもあのアンニュイな女性ペリグリーノだ。

彼女は腰のストレッチをしていた。つらそうだった。

私とイヴに気付いているはずだが、目をあわせようとはしない。

私もやっぱり何となく、話しかけられなかった・・・。

 

それにしても、こんなに同部屋が続くのも何かの縁だなと思った。

同時に、今日は早く部屋の電気を消さなきゃなと思った。

 私はイヴにフランス語でささやいた。

 

わたし「彼女いつもアンニュイだよね」

イヴ 「Oui」

わたし「いつも一人でいるよね」

イヴ 「Oui」

わたし「彼女、どこの国の人かな?」

イヴ 「・・・(答えず、静かにほほえむ)」

 

 

歯磨きをしてベッドに戻ると、イヴと彼女が話をしていた。

どうやら彼女はフランス語ができるらしかった。

ということは、さっきイヴと話していたの、きこえてたかも・・・。

ドキッとした。

アンニュイな彼女が、イヴに向かってちょっと笑った。

二人が何を話していたのか知りたかったけど、・・・聞けなかった。

 

その夜は隣の部屋からバリトンのいびきが高らかに響いてきて、寝付けなかった。

向かいの部屋からも陽気な笑い声が遅くまで聞こえていた。

そのとき、やっとわかった。

アンニュイな彼女は、静かな巡礼である私とイヴとの同部屋を「選んで」いるんだ。

私は明日こそ、彼女に挨拶してみようと思った。

 

 

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