カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

CARCASSONNE ② 拷問博物館

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Musée de l'Inquisition

 

1日だけの滞在だったら、絶対そこに入ることはなかった。

拷問博物館。

 

「inquisition(異端審問)」という単語を私は知らなかった。

外観から、中世の宗教関係の博物館だと思った。(ある意味当たりだが・・・)

立ち止まった私に、入口であぐらをかいて座っていたお姉さんが明るく声をかけた。

 

お姉さん「(英語で)あなたここ興味ある? 説明聞きた〜い?」

わたし 「Oui」

お姉さん「ここはinquisitionの歴史について展示をしているの!」

わたし 「すみません、私は英語わかりません。フランス語でゆっくり話して下さい」

お姉さん「(フランス語で)あ〜ら、ごめんなさ〜い!」

 

お姉さんはフランス語でゆっくり説明してくれたが、よくわからなかった。(笑)

わかったのは、博物館は二ヶ所に分かれていること。

一階は牢屋で二階は道具の展示をしていること。

映像による説明ブースもあること。

料金は9ユーロ50。写真は撮っちゃダメ。

 

わたし 「私、見ます」

お姉さん「じゃチケット買ってね〜。・・・行ってらっしゃ〜い!」

 

 

入ってすぐに、後悔した。

なんだここ、誰もいない。(誰もいなかった!)

時代遅れの、場末の、サビれた蝋人形館じゃないかああ・・・?

しかし。そこは単なる蝋人形館ではなかった。

暗い牢屋につながれた囚人たち。彼らは拷問にあっていた・・・。

 

 

Cathares

 

小さな映像ブースでは、短いフィルムが流れていた。 

異端審問と「カタリ派」の歴史について。

ジャンヌダルクのように、火あぶりにされている女性が写っている。

私は見入ってしまった。

 

カタリ派

 

11世紀末から12世紀にかけて。

南フランスから北イタリアにかけて起こった民衆運動であり、キリスト教の異端。

彼らは十字軍によって徹底的に弾圧され、14世紀半ばには根絶された。

 

縄で縛られて城内から出される信者たち。

ホロコーストに匹敵する、10万人規模の、おびただしい死者数。

魔女狩りの原型とも言える、徹底的な迫害と審問の歴史。

 

映像の力はすごい。

フランス語の知識が乏しい私にも、その惨状は十分に伝わった。

 

さらに。

映像後に実際に目で見た、様々な拷問の道具。

展示されているいくつかの道具は知識としては知っていた。

でも、実際に見ると迫力が違う。

 

私は思った。

これらを作った人がいるのだ。

考案した人がいるのだ。

そして実際に使った人がいるのだ。

 

これらにより殺された人たちが、本当にいるのだ。

 

人間の想像力はいかようにも有用できる。悪にも、善にも。

もっとも善悪の基準は、人によっても時代によっても変わる。

拷問による審問は「善」であると信じたからこそ、実行できたのだろうが・・・。

 

工夫を凝らした拷問器具からは、開発者の興奮まで想像できるようだった。

人間はどこまで他者の痛みに対して残酷になれるのか。

 

出口にたどり着いた時、私はすっかり悲しく、落ち込んでしまっていた。

そこに先ほどのお姉さんが、やっぱり明るく話しかけてきた。

 

お姉さん「(英語で)は〜い。じゃ、二つ目の場所を説明するわね〜!」

わたし 「・・・」

お姉さん「この道をまっすぐ行って、右にある通りを・・・」

わたし 「(フランス語で)すみません。フランス語でゆっくり話して下さい」

お姉さん「(フランス語)あ〜そうだった、ごめんね〜! やだ私ガイド失格ね〜!」

わたし 「・・・」

お姉さん「観光客って、みんな英語で話すから!」

わたし 「ここ。・・・私はとても悲しい」

       間

お姉さん「お〜ごめんねごめんね〜! 悲しくさせちゃってごめんなさ〜い!」

 

明るく謝りながら、お姉さんは二つ目の博物館の場所をフランス語で教えてくれた。

博物館の前にはクレープ屋があった。

クレープをかじりながら私たちの会話を聞いていた女の子が、クスクス笑った。

私は二つ目の博物館に行き、さらに思いっきり暗い気分になった。

 

 

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火あぶりの刑

 

それは、帰国後のこと。

私は十日間、高熱を出して寝込んだ。

のどが腫れあがっていた。

とろ火で全身を焼かれるように熱かった。

 

「火あぶりの刑のようだ」私は思った。

 

夢の中で、中世の騎士が私の横に立っていた。

鉄の甲冑を身につけて旗を持っている。

無言だが、何かを伝えたがっているようだった。

  

熱がおさまってからも、のどの違和感は治らなかった。

気になって耳鼻科の病院で診てもらったが、異常は全くないという。

医者曰く、高熱の余韻で違和感だけが残っているが時間とともに消える、とのこと。

だが今だに、違和感は残り続けている。

 

あの熱と喉の痛みを思うたび、私は「カタリ派」を思い出す。

今もなお、のどに違和感を覚えるから、なおさら強く。

 

そして、これは、とにかく書かなければならないのだと思った。

理由はわからない。でも、わからないまま書く必要があるのだ。

 

 

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カタリ派は、マグダラのマリアとの繋がりも濃い。

黒いマリア様がたくさん作られた時期も、カタリ派の隆盛時期と重なる。

カタリ派カトリックと違い、マグダラのマリアの教えを伝えていたのではないか。

マグダラのマリアの教えは、キリスト教以前のイシス信仰と重なるのではないか。

 

神の名のもと、十字軍により虐殺されたカタリ派信者たち。

彼らの死は結果的に、現在のフランス国家を形成する土台となった。

この侵攻により南までフランス王権が拡大され、国家統一が進んだからだ。

歴史を俯瞰して見ると、必然だったともいえる。

 

 

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必然でない出来事はない。

どんなに些細なことも影響し合っている。

この世界で切り離されているものなど何もない。

 

だからだろうか。

大勢が同じ一つの方向を見るとき、暴力性を帯びた巨大な力が生じる。

悪夢。

 

だが、それさえもドラマ。

悪夢でさえ夢に過ぎない。

 

私は夢の中で書いている。

 

 

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