カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼11日目 足にマメが10個あって痛いからバスだよバスっ!

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巡礼11日目 グラニョン → ビジャンビスティア

 

朝の食事で名前をきいた。

デンマークからきたと言う、彼の名前はタイス。

 

アルベルゲを出てしばらく一緒に歩いた。

けれど歩くスピードが随分違う。

私が速いのだ。ペースが合わない。

 

私は先に行くことにした。

縁があれば、また会えるだろうと思った。

日がさしてきた坂道で別れた。

 

「ブエン・カミーノ!」

笑顔で大きく手を振った。

 

 

10時過ぎ。

ちょっとフォーマルなレストランで、スモ・デ・ナランハを飲んだ。

フレッシュなオレンジジュース。

その場で絞ってくれるのだが、本当に美味しいのだ。

パッフェルベルのカノンが流れる店内に、客は私一人。

店のご主人はタルトをごちそうしてくれた。

束の間の優雅な時間を堪能させていただいた。

 

 

店を出たところで、何人かの巡礼と出会った。

その中にタイスがいた!

私に向かって手を振った。

私も手を振り返した。

そんな小さなことが、とても嬉しかった。

 

 

昼過ぎまで歩いて、

ビジャンビスティアのアルベルゲに入った。

部屋に入ると、先客のペリグリーノが一人。

ぽちゃぽちゃ太った赤ら顔の若い女の子。

私を見るなり、けたたましく話しかけてきた。

 

「あんた、どっからきたの?」

「どっから歩いてんの?」

「あたしオランダ人!」

「年は24!」

「名前はミニヨン!」

「彼氏と歩いてんだよッ!」

「でもあたし足にマメが10個もできててさ!(と、見せる)」

「歩けないからバスで移動!バス、バスッ!」

「荷物はね〜、彼氏に持たせてるッ!」

「彼氏は後から来るッ!」

「友達も一緒ッ!全部で5人!みんな巡礼ッ!」

「歩いてるうちに友達になった奴らなんだよね〜!」

「後でみんなここ来るよッ!」

「ドイツ人の兄妹と、あとイスラエル人!」

「で、あんた一人? 国どこ?」

「日本人〜?! 日本人って初めて見た、あたしッ!」

 

 

乱暴な会話を(ほぼ一方的に)交わしているうちに、

ミニヨンの友人たちがやってきた。

生真面目そうなドイツ人の兄妹とドレッドヘアのイスラエル人ガイ。

ガイは片足を引きずっていた。巡礼中に痛めたらしい。

「もうすぐタイスが来る」とガイが言った。

 

「タイス?」

 

もしかしてあのタイスかもと期待した。

どうやら「タイス」はミニヨンの彼氏らしかった。

ということは、あの「タイス」がこの「ミニヨン」の彼氏?

???・・・違うような気がした。

でももしかしたらと思うと、ちょっとばかしショックだ。

会いたいような、会いたくないような複雑な気持ちになった。

 

 

はたして夕食時に入ってきた「タイス」は、

2メートル近い大男だった。

ミニヨンの彼氏にふさわしいどっしりした体躯。

山男で、ベジタリアンで、物静かな男の子だった。

 

 

アルベルゲで夕食。ミニヨンたち5人と同席。

昨日とはうって変わってにぎやかな食卓。

私があまりに英語ができないので、

みんながバカにするのがいやだった。

何か言うたびに、ものすごく笑われるのだ。

タイスだけが静かにきいていた。

 

だから楽しかったけど、ちょっとかなしかった。

パスタもスープもワインもおいしかったし、

デザートのアロス・コン・レチェも絶品だったけど、

失礼して私は先に部屋に戻った。

 

 

夜。寝袋にくるまってノートに日記を書いていると、

ミニヨンが来て無遠慮に覗き込んで言った。

 

ミニヨン「何書いてんの?」

わたし 「日記。ミニヨンのこと書いてた」

ミニヨン「うるさい女と会ったって?」

わたし 「うるさくて、プリティーな女と会ったって」

ミニヨン「・・・!(かっかと笑う)」

わたし 「明日はどこまで行くの?」

ミニヨン「あたしは足にマメが10個あって痛いから病院」

わたし 「荷物はタイスが持つの?」

ミニヨン「そう、荷物はあいつが持つの」

わたし 「やさしいね」

ミニヨン「・・・(うなずいて微笑む)」

わたし 「いいね、彼氏と巡礼。スイート!」

ミニヨン「♡(はずかしそうに微笑んだ!)」

 

 

ミニヨンたち五人とは、この後も再会することになる。

でもグラニョンであった「タイス」とは、

この日限り二度と会うことはなかった。

 

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