カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼12日目① 言葉を伝えることはできなくても心は伝えることができる

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巡礼12日目① ビジャンビスティア → アタプエルカ

 

オカの山道はぬかるんで、雪も残っていた。

歩くたびにトレッキングシューズがずんずん重くなった。

 

私の前を赤いバックパックの巡礼が歩いていた。

背中のフォルムと歩き方が安定していて、美しかった。

どんな人なのか気になっていた私は、少しずつ接近していった。

 

やっと追いついた赤いバックパックの主は、

カナダ人のおじさんペリグリーノだった。

山道を歩き慣れている人特有の、落ち着いた風格があった。

 

知性を感じる笑みを浮かべて、彼は話しかけてきた。

明快でていねいな英語だった。

彼は日本が好きで、特に伊勢が大好きだと言った。

北海道にも行ったことがある、と言った。

 

「北海道には雪があった。この道と同じように」

 

彼の英語は聞き取りやすかった。

そして私も、まったく物怖じせず話すことができた。

 

結局、人と人なんだ。そう思った。

国籍が違っても、心を開いて話せる人はちゃんといる。

きちんとした言葉を伝えることはできなくても、

心を伝えることはできるのだ。

 

 

彼の名前は・・・忘れてしまった。

風変わりで覚えにくい名前だったのだ。

変わった名前ですね、というと、

カナダは移民が多いから、と彼は答えた。

 

「なぜカミーノを歩いてるの?」と、きかれた。

私はしばらく考えて、勢いよく答えた。

「カミーノ、コーリング・ミー!」

彼は大笑いした。

 

峠の頂上に石碑が建っていた。

フランコ政権時代に戦死した人たちを追悼するモニュメントだと、

彼が説明してくれた。二人で黙祷した。

 

少し休んでいると、

初老の巡礼二人がふうふう言いながらやって来た。

ローマから来たイタリア人。

どちらも大汗をかいていた。

 

「オラ〜!」と挨拶すると、お菓子をくれた。

フルーツとナッツが入った甘〜いお菓子。

疲れがいっぺんに吹き飛んだ。

 

「私は去年ローマに行ったよ。アッシジにも行った」

私はイタリアーノに話しかけた。

そしてお守りに持っていたアッシジのタウ(十字架)を見せた。

すると二人のイタリアーノも、リュックに下げていた同じタウを見せた。

聖フランチェスコのタウが三つ、平和のモニュメントの下に揃った。

 

 

私とイタリアーノが写真を撮っていると、

カナダ人のおじさんは、自分は先に行くと言った。

私はもう少し彼と喋りたかった。楽しかったから。

けれど彼が一人で歩きたがっているのを感じたので、さよならをした。

歩くのが早い彼は、どんどん先へ行った。

赤いバックパックの背中はみるみる遠くなった。

 

 

山道を抜けて小さな村のバールに入ると、イレーヌがいた。

パンプローナの宿でイレーヌと一緒にいた男性も一緒だった。

フィンランドから来たという、彼の名前はヘイキ。

いつもブスッとした表情をしていたから、

怖い人かと思って私は敬遠していた。

けれど思い切って話しかけてみると、そうでもなかった。

ただ無愛想なだけなのだった。

 

わたし「フィンランドのどこから来たンですか?」

ヘイキ「ヘルシンキ

わたし「ヘルシンキ! アイラブ・ムーミン!」

ヘイキ「う〜む」

わたし「アイラブ・トーベヤンソン!」

ヘイキ「う〜む」

わたし「アイラブ・マリメッコ!」

ヘイキ「アイラブ・ノーザンライツ

わたし「ノーザンラ〜イツ! ミートゥー!」

 

 

イレーヌとヘイキは私に言った。

「この先のアタプエルカに泊まるといい」

はい、お告げが出ました、と心の中で私はつぶやいた。

今日は私はそこへ行く、ということですね、神様。

 

まだ飲んでいる二人を置いて、私はアタプエルカに向かった。

しばらく行くと私の前に、

なんとなく匂う、小汚いペリグリーノが歩いていた。

バックパックに「道」と日本語で書かれた札を下げている青年だ。

彼はとてもゆっくりと、夢みるような足どりで歩いていた。

気になったので話しかけた。

 

わたし「ねえそれ、日本語だね。道って書いてある」

青年 「(長い間があって)・・・うん」

わたし「私、日本人」

青年 「・・・(こくりとうなずく)」

わたし「あなたは?」

青年 「・・・チェコ

わたし「チェコ〜!」

青年 「・・・(にっこりと微笑む)」

 

チェコから来た青年は、野宿しているようだった。

とろんとした瞳で、ゆっくりゆっくり歩き続ける。

カミーノが能舞台になったようだった。

興味深かったからもう少し話してみたいけど、

あんなにゆっくり私は歩けない。

それに彼はあまり話したくないようだ。

「ブエン・カミーノ!」と言って別れた。

 

 

そしてこのあとアタプエルカで、

私は泣きに泣いて感情を爆発させることになる。

それから、大切なパートナーとなる人と出会うのだ。

 

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