カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼20日目① カミーノ・マジック。偶然という形の必然。日常の中にある恩寵。

 

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巡礼20日目① アルカウエハ → ビジャル・デ・マサリフェ

 

「J'ai soif(喉が渇いた)」

 

と言ったらすぐに、

イヴは私のリュックのポケットから水を取り出して渡してくれる。

一人だといちいちリュックを下ろさなきゃならないけど、二人は便利だ。

イヴはといえば、ハイドレーションで定期的に水分をとっていた。

 

わたし「Merci, Monsieur」

イヴ 「ムッシューって誰ですか? 僕はその人知りません」

わたし「・・・? ムッシューって言われるの、よくない?」

イヴ 「(フランス語で、なんか言う)」

わたし「(日本語でつぶやく)名前で呼んでほしいってことか」

イヴ 「・・・・・・」

わたし「メルシー・イヴ。ムッシューより、名前で呼んだ方がいい?」

イヴ 「C'est mieux(そのほうがいい)」

 

確かに「おばさん」と言われるよりも、私だって名前で呼ばれたい。

レオンへ向かうスペイン巡礼道を歩きながら、フランス語教室は続いた。

 

 

レオンに着いたのは、朝9時前だった。

もちろん杖を買うための店なんか開いてない。

では、朝一番で大聖堂に行こう。開くのは9時半だ。

私とイヴは広場のベンチでマンダリンを食べながら、大聖堂が開くのを待った。

 


レオン大聖堂。

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ものすごく美しかったけど、美しさがワイドすぎて写真におさまらない。

イヤホンガイドで語られる英語の説明を理解するのもあきらめた。

私はただ全身で美を享受した。

 

 

大聖堂から出た角の通りでばったり、彼女に会った。

数日間アルベルゲで同部屋だった、あのアンニュイな彼女だ。

思わず三人「わあっ!」と言った。

彼女は私たちに勢い込んで話しかけてきた。

涙声だった。

 

「私は今日でカミーノ最終日なの・・・!」

「明日から仕事だから・・・」

「最後にここで大聖堂を見て、巡礼を終えようと思っていたの」

 

わたし「今日で最後なの?」

彼女 「そう・・・(と、涙ぐむ)」

イヴ 「大聖堂は素晴らしかったよ。巡礼の最後にふさわしい」

彼女 「・・・(泣く)」

わたし「・・・(もらい泣きする)」

彼女 「(涙を拭きながら)あなたたちはサンチャゴまで?」

わたし「うん」

彼女 「短い日程だったけど来て良かった。エル・カミーノ。素晴らしい休暇だった」

イヴ 「(フランス語で何か言う)」

彼女 「(フランス語で何か答える)」

わたし「ねえ、あなたの名前は?」

彼女 「・・・オルガ」

 

私は思わず彼女を抱きしめた。

オルガは泣きじゃくった。

彼女の腕の力を感じながら、私は思った。

オルガは本当はもっと人と喋りたかったに違いない。

交流したかったに違いない。

でもそうすることを許さなかったのだ。

許してはいけないとする、彼女なりの理由があったのだ。

でもいま彼女は、すべてを許して泣いていた。

 

「オルガー! ブエン・カミーノ!」

 

私たちは笑顔で手を振って別れた。

 

 

最初に言葉を交わしたのが、最後の日になったよね、オルガ。

どこの国の人なのか、聞きそこねたんだよ。

あなたはイヴに対してはフランス語で、私に対しては英語で話しかけてくれた。

そのやさしさと知性から、あなたの履歴がこぼれてくる気がした。

 

あの時間に会うなんて、すごい偶然だったと思う。

あの細い横道で会ったのも、ものすごい偶然だった。

カミーノ・マジック。

偶然という形の必然。日常の中にある奇蹟。

私たちはその恩寵に触れたんだ。

 

 

大聖堂の鐘が鳴った。

オルガと別れて、私とイヴは再び歩き出した。

 

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