カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼31日目② すべては完璧に順調に進行している。たとえ私の目にそうと映らない時でも。

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巡礼31日目② サンタ・イレーネ

 

二段ベッドの上段で昼寝から覚めた。

下段はイヴだが、ベッドにはいなかった。

 

横のベッドにピンクのTシャツを着たかわいいペリグリーノがいた。若い女の子だ。

履いているスパッツはド派手なグリーンとピンクのボーダーだったが、

発色がきれいだから変じゃない。

私は起きて挨拶した。

 

わたし「どこの国の人?」

ピンク「イタリア。ミラーノ。24才。あなたは?」

わたし「ジャパン。トーキョウ」

わたし「トーキョウ!!」

わたし「どこから歩いてるの?」

ピンク「レオンから。あなたは?」

わたし「サンジャン・ピエ・ド・ポー」

ピンク「すっげー!」

わたし「今日でカミーノ、一ヶ月」

ピンク「すっげー!」

わたし「(下のベッドを指差して)私の友達はヴェズレーから歩いてる」

ピンク「ヴェズレーッ!」

わたし「カミーノ12日目に会って、一緒に歩いてる」

ピンク「ファンタジィ〜!」

わたし「彼はフランス人。英語ダメ。私も。私はフランス語ちょっと。でも会話してる」

ピンク「ファンタジィイ〜!」

 

ピンクの彼女はリアクション大魔王で、表情豊かだった。

大してことは喋らなかったが、めちゃくちゃ楽しかった。

 

お腹がすいたのでキッチンへ行ったら、イヴがいた。

 

イヴ 「よく寝た?」

わたし「よく寝た」

イヴ 「夕食食べる?」

わたし「夕食食べる」

 

私のリクエストにより、イヴはゆで卵入りバターキヌアを作ってくれた。

私はサラダを盛りつけた。

 

となりのテーブルには若い韓国人のペリグリーノが四人。(男が二人、女が二人)

ジャンケンで、食べ終わったあとのお皿を洗う人を決めている。

その次は、余った調味料を持って帰る人を、やっぱりジャンケンで決めていた。

負けても勝っても彼らはオーバーアクションで、見ていて楽しかった。

 

奥の椅子に、エレガントな老婦人が座っていた。すてきなペリグリーノだ。

私と同じように、韓国人巡礼たちの挙動を見てほほえんでいる。

若い時のフランソワーズ・サガンを思わせる、ショートカット。

知的で、所作がきれいで、品があった。

 

イヴ 「(サラダを食べながら)昨日はいびきがうるさくて眠れなかった」

わたし「イヴもうるさかったよ」

イヴ 「僕が? (そんなことはありえないという真顔で)bizarre」

わたし「bizarreじゃないよ。時々ガーガーやってるよ!」

 

私の稚拙なフランス語がわかったのだろうか、サガンは笑った。

 

わたし「・・・私、あの女性、好き。なに人かな? フランス人?」

イヴ 「違うと思う。多分、ドイツ人・・・」

 

ジャンケンに負けたコリアンボーイは、山のような皿を一人で洗っていた。

おまけに彼は次のジャンケンも負けたから、油と塩と牛乳も持ち運ぶことになっていた。

ふんだりけったりだ。

 

私たちも食べ終えて、食器を洗った。キッチンもきれいに磨き上げた。ピカピカになった。

 

さあ、いよいよ明日はサンチャゴだ。

 

寝袋の中で、私は思った。

巡礼はじめの頃、アルベルゲで一緒だったキムさん一家はどうしただろう?

イレーヌは? みんなもう会わなかった。

 

ベルギー在住のKさんは、レオンで娘さんと会ったはずだ。もう歩いてないだろう。

Y君は日本に帰っている頃か・・・。二人とも、きっともう会うことはない。

 

いずれにせよ、再会するご縁があれば、また会える。

すべては完璧に順調に進行しているのだ。

たとえ私の目にそうと映らない時でも。

そして私のものの見方は、私の選択でいかようにも変えられるのだ。

 

何もおそれるものはない。

私は目を閉じた。

 

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