カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼32日目 「君はきっとカミーノをもう一度歩くだろう、その時は〝北の道〟を行きなさい」

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巡礼32日目 サンタ・イレーネ → サンチャゴ・デ・コンポステーラ

 

イヴ 「君は写真を撮らないの?」

わたし「撮らない。それより早く巡礼証明書をもらいに行きたい」

 

サンチャゴに着いたというのに、何の感動もなかった。

修理中の大聖堂を写真に撮る気にもならなかった。

 

イースターのサンチャゴは、インドのカルカッタかと思うくらい混雑していた。

祭の行列が行き過ぎる。

写真を撮る人々。音楽。大声で喋る人たち。物売りの声。

 

Ouf! ・・・Je suis très fatiguée!(私は疲れとるんじゃあ!)

 

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実はあまり覚えていないのだ、この日のことを。

一番感動が薄いのだ、なぜかこの日が。

 

巡礼証明書をもらうために巡礼事務所へ行った。

そこも人で溢れ返っていた。

ペリグリーノはいっぱいいたが、知ってる顔は誰一人いなかった。

 

数十分並んで登録をすませた。

受付の女の子の英語がまったくわからなかった。

質問されても何も答えられない私に、彼女も困っていた。

それでもなんとか証明書を発行してもらった。

 

「静かなところへ行きたい」

 

アルベルゲ・セミナリオに行くことにした。

いや。

大聖堂へ行く前に、私たちはアルベルゲへ行ったのかもしれない。

荷物を降ろしたかったのだが、まだ早かったので預かってもらえなかったんだ。

 

それからバールへ。イヴとワインで乾杯し、プルポ(タコ)を食べた。

いや。

その店に行く前に、再会したんだ。

道の角でばったり。ブルガリアンに。

 

魔術師のようなブルガリアン。孤高のペリグリーノ。

彼と会って、ハグをした。

 

私の瞳をじっと見て、熱のこもった音で、ブルガリアンは何か言った。

そうして彼はひとすじ、泣いた。暗い沼のような瞳から、涙がこぼれた。

私はその涙の波動を受けて、一緒に泣いた。

そしてそのとき初めて、サンチャゴに到達したという実感が湧いた・・・。

私は日本語で彼に喋りかけた。

 

「私はあなたを知らないし、あなたの言葉もわからない」

「でも私はあなたを尊敬している。あなたを全身で感じている」

「今日ここであなたに会えてうれしい。ありがとう」

 

彼は私を抱きしめた。私の言葉を体で聞いた。

言葉がわからなくても、存在そのものに触れることはできる。

ブルガリアンの体から私は、魔術師の孤独のような重いエネルギーを感じた。

それから、もう二度と会うことはないとお互いに感じながら、私たちは別れた。

ブルガリアン。あなたの幸せを祈ります。

 

 

バールで軽食をとってから、大聖堂を見学した。

モチーラ(リュック)を背負ったままでは入れなかったから、入口のおばさんに預けた。

1ユーロだったか。リュックを渡したものの、盗られそうでなんとなく不安だった。

イヴが私の手を引いた。

「さあ、ヤコブさまに会いに行くよ」と彼は言った。

 

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アルベルゲに戻って、久しぶりのシングルルームに感動した。

静かだった。

私はやっと落ち着いた。

 

ドアの鍵がなかなかかからなかった。

隣の部屋から出てきたおじさんが、こうやるんだよって、コツを教えてくれた。

おじさんは、北の道を歩いて昨日到着したという。

アメリカ人だった。きれいな目をしていた。

 

「君はきっとカミーノをもう一度歩くだろう、その時は〝北の道〟を行きなさい」

彼は私にそう言った。

 

夕方から、もう外へ出なかった。

荷物を整理して、部屋にこもって、一人で今後の予定を立てた。

この先、Wi-Fiが繋がらなかったら何もできないから、必要な情報は得ておきたかった。

 

フィステーラまではイヴと二人だけど、それからは一人になるのだ。

再びサンチャゴに戻ったあと、私はフランスへ、ルルドまで行くつもりだった。

でもどうやっていけばいい? それすら私はわからなかったのだ。

 

イヴにもその日はもう会わなかった。

夕食の約束もしていなかったから、声もかけなかった。

部屋は廊下を挟んで向かい側だったけど、ドアをノックすることもしなかった。

ただ明日の朝、大聖堂のミサに出る約束だけはしていた。

 

もう一日、私たちはサンチャゴに連泊する。

明日は厚手の靴下二枚履きは必要ない。五本指ソックスも。

ひざのサポーターもゲーターもつけなくていい。杖もいらない。

 

・・・静かだった。

いままでのアルベルゲの夜とはまったく別の種類の静けさ。

 

私のリュックの中には、巡礼証明書が入っていた。

 

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