La Sainte-Baume ①
Sanctuaire de Sainte-Marie Madeleine
誰もいない森の道を、サントボームの洞窟に向かって私は歩いていた。
曇り空の午後。
苔むした木々。巨大なブナや菩提樹が頭上高く生い茂っている。
プロヴァンスの真ん中とはとても思えない湿潤さ。
水気をたっぷり含んだ空気が、あたりを潤していた。
聖地なのに威圧的ではなく、ふうわりと優しい。
マグダラのマリア様のエネルギーだろうか・・・。
スペインのカミーノ巡礼。フィステーラへ行く道を思い出した。
カタツムリのメッセージ
ゆっくり呼吸するように歩いてきて、ふっと・・・私は立ち止まった。
そして何気なく足元を見ると、カタツムリが這っていた。
はっとした。
もし立ち止まらなかったら、私は確実にカタツムリを踏んでいた。
でも、私は立ち止まったのだ。
なぜかはわからない。
なぜか知らないけど、立ち止まったのだ。
私の思考を超えて、体がそうなったのだ。
ああ、そうか。
私は深く悟った。
何があっても踏み潰されることはない。
だから安心して進んでいけばいい。
自分のペースで進んでいけばいい。
巡礼の旅は、五感を研ぎ澄ませる旅だ。
世界からのメッセージを気づきやすくさせる。
私は受信した。私は損なわれることはない。
ありがとうございます。
ただ歩いているだけなのに、泣きたくなるような瞬間がいくつもあった。
思考はいくつも湧き上がってきたが、「私」が考える次元をはるかに超えていた。
世界は足の裏からストーリーを語ってくれた。
そんな時、ああそうかそうなんだと深く私は納得した。
人知を超えた力が、網の目のように世界をつなぎ、ダイナミックに動かしていた。
動いているのか、動かされているのか。
私たちは網目の小さな小さな一点。
けれど私たちの小さな一点がなければ、世界は存在しない。
私たちは世界と等しい。
洞窟を示す矢印が岩場に書かれていた。
矢印をたどり、150段の階段を上っていく。
修道院がはるか下に見えた。
随分登ってきたものだと実感した。
マグダラのマリア様が33年間祈りを捧げたという洞窟。
私が夢で見た洞窟は、もうすぐそこだった。