La Sainte-Baume ③
MESSE
朝。修道院の森の小道を抜けて、洞窟へ向かった。
洞窟でミサがあるので出席したかったのだ。
曇り空は洞窟に近づくと小雨に変わり、到着するやいなや土砂降りになった。
さらにミサが始まると、ものすごい雷雨に。
洞窟の中は守られていたが、雷の音が近く、怖いくらいだった。
ミサに出席した人たちは国籍もバラバラ。
10人くらいいただろうか。みな私同様、旅行者と思われた。
司祭のフランス語は全くわからなかったが、並んで祝福を受けた。
ロウソクに火を灯し、マグダラのマリアさまに感謝したら、心が静かになった。
ミサが終わると嘘のように嵐は去り、細かな雨になっていた。
小鳥の声があちこちから聞こえていたので、晴れると思った。
私はレインスーツを着たまま、山頂の礼拝所「サンピロン」へ向かった。
CHAPELLE DU SAINT PILON
雨は次第にあがり、30分も歩くとすっかり晴れた。
誰もいない片道1時間の山道。
打ち棄てられた礼拝堂の前を通過し、ジグザグに登っていく。
山頂付近になると、空気が一変する。
森の湿気はどこにもなく、からりと抜けた青空と風が、ただ待ち受ける。
見えて来た! あの石の建物だ!
マグダラのマリアが1日に7回祈りを捧げたという礼拝堂。
彼女は洞窟から天使たちに運ばれてここへ来たという。
天使たちは彼女に「天国の音楽」を聞かせ、それは彼女の食べ物となったという。
・・・不思議と私もお腹がすかなかった。
不思議なほど満たされていた。
なんという清々しい場所だったろう!
天国に近い場所。天国の音楽が聞こえる場所。
本当にそうだと心から思った。
小さな礼拝堂の中にはマグダラのマリアと天使たちの彫像があるのみ。
山頂は崖の上にあるから、高所恐怖症の人は下を向けない。
絶景のパノラマ!
・・・本当に来てよかった!
一時間くらいのち、下から上がって来たご夫婦と入れ替わりに、私は下山した。
帰りにもう一度洞窟へ行き、「聖なる泉」で水を汲んだ。
驚いたことに、車椅子で巡礼している方と出会った。
もちろん介添えの人が一緒だったが、何といっても山道だ。
ルルドのように道が整っているわけでもない。
どちらにしても大変な巡礼と察せられた。
車椅子に乗った彼女は、浅黒い肌の色。まだ若かった。
彼女は両足がなかった。
車椅子を押す人も、彼女も、とても真剣な表情で登っていた。
・・・胸がつまった。
マグダラのマリアはイエスの死後、33年祈ったのち、サンマキシマムで没する。
彼女の祈りは、どのようなものだったのだろうか。
洞窟の世界が闇ならば、山頂は光そのもの。
マグダラのマリアは闇と光を同時に行きつ戻りつし、どちらも受容したのだろうか。
迫害された彼女を受容した南フランスの人たちの精神性と、重なるような気がした。