カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

BORDEAUX 月の港

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ボルドー・サンジャン駅

 

カルカッソンヌからボルドーまではTGVで約3時間。

ストライキあけの国鉄は何事もなかったように運行していた。

 

ボルドーはホテルが高いので、私は迷わず安いユースホステルを選んだ。

今思うと、どうして迷わずそう決めたのか、自分の中の潜在的な貧乏性を疑う。

 

ユースは駅からアクセスが良く、大きかった。

24ユーロ。2ベッド一部屋。シャワー付き。清潔。

いいところを選んだ! と私は喜んだ。

 

去年のカミーノ巡礼で知り合ったイヴとは、明日、駅で会うことになっていた。

彼と会った後、TGVで私はパリへ戻り、帰国に備える。

だから今日はゆっくり休んで、自分ケアして眠ろう。

私はそう決めていた。

 

が、・・・眠れなかった。

夜10時。大音量とともに隣の会場でロックフェスが始まった。

防音ガラスじゃないからうるさくてたまらない。

12時過ぎれば終わるのではと期待したが無駄だった。

 

拷問だと思った。

 

さらに深夜の13時半。

部屋のドアが開いて、20代の女の子が入ってきた。

私はびっくりして飛び起きた。

もう誰もこないと思って荷物を広げていたのだ。

 

私は日本語で謝った。

 

わたし「ごめんちょっと待って今片付けるから!」

女の子「・・・」

わたし「もう誰もこないと思って荷物広げてたの! ちょっと待ってて!」

女の子「ごめんなさい。外に出てるわ・・・」

 

こんなことなら高いホテルにすれば良かったと思ったが後の祭り。

干していた洗濯物を生乾きのままリュックに突っ込み、女の子を入れた。

 

ロックフェスは深夜3時過ぎまで続いた。

終わってからも大音量で片付け作業があった。

(太陽が昇ってからやってくれよフランス人!)

日本では考えられない自由さが、羨ましいほどだった。

 

朝。

食堂でユースの朝食をモリモリ食べた。

バゲットがかたかった。

思いっきりかじったら、前歯が欠けた。

 

うおおおおおおおお。

 

渡仏前、歯医者に行ったとき言われていたことを思い出した。

前歯の被せ物、弱くなってるから帰ってきたら当たりましょうねと。

まさか今か一! 

 

今日はイヴに会うというのに、私はものすごく寝不足で前歯が欠けていた。

なんともはや。しかし、どうしようもない。

私は欠けた前歯のまま、サンジャン駅に向かった。

 

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一年ぶりのイヴとは、待ち合わせ場所で会う前に会ってしまった。

駅の待合ベンチに座って、勢い込んで猛烈に喋りまくる二人。

 

わたし「本当は昨日来たかったんだけど、ストだったから!」 

イヴ 「C'est la france avec ses grèvés!」←どっかで聞いたフレーズ

 

わたし「夜、眠れなかったの。ロックコンサートがあったから!」

イヴ 「今、LGBTのフェスをやってるんだよ」

わたし「・・・何?(単語が理解できない)」

イヴ 「LGBT

わたし「って何?」

イヴ 「(少し小声で)ゲイの・・・」

わたし「(理解して)ああああ」

 

わたし「で、どこへ行くの?」

イヴ 「水の鏡。川沿いに歩く。君は気にいると思う」

わたし「大聖堂が見たい。でもその前にコインロッカーに荷物を入れたい」

 

ボルドー駅にはコインロッカー(consigne)があるのだ。

だが日本と違って、有人の受付を通して赤外線チェックを受ける。

さらに料金ぴったりの硬貨でなければ使えない。

小銭のなかった私を待たせ、イヴはカヌレを二つ買って両替して戻って来てくれた。

 

イヴ 「ボルドーカヌレだよ」

わたし「嬉し〜い。食べたかったの!」

 

 

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ボルドー歴史地区は「月の港」として世界遺産登録されている。

 

小雨降る中、私とイヴはボルドーの中心街を歩いた。

私たちの歩く速度は、去年と同じだった。(ホッとした)

 

時々、道路にカミーノのホタテマークを見つけた。

私がそれを指差すと、イヴは答えた。

 

ボルドーはサンチャゴ・コンポステーラ巡礼道の途上にあるからね」

 

その巡礼道にある大聖堂の一つ、サンタンドレ大聖堂に私たちは入った。

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なかなかに広い堂内。ステンドグラスが美しい。

 

歩いていると、広い堂内の一角に、写真が展示されているスペースを見つけた。

ボルドー在住の写真家の展示のようだった。

美しいボルドーの街の写真が、いくつも飾られていた。

 

その一隅に、特設スペースがあった。

・・・なんと!

同じ写真家による「カミーノ ・フランセ」の写真があった!

 

わたし「うわっイヴ! 見て! カミーノ!」

 

私たちはすっかり嬉しくなってしまった。

去年一緒に、または一人で歩いた場所が、美しい写真として、そこにあった。

 

ペルドン峠。

エウナテの教会。

プエンテ・ラ・レイナの橋。

 

わたし「この場所から数日後に、私たち会ったんだよ」

イヴ 「うん、そうだ」

わたし「アタプエルカ」

イヴ 「アタプエルカ」

 

ブルゴス大聖堂

レオン大聖堂。

ポンフェラーダ。

 

イヴ 「ここで親切なムッシューに会った。君は銀行を探して・・・」

わたし「うん。銀行まで連れて行ってくれた」

イヴ 「ここで飲んだショコラは甘くてとても美味しかった」

 

ポルトマリン。

モンテドゴソ。

サンチャゴ・デ・コンポステーラ

 

イヴ 「おおサンチャゴ〜」

わたし「サンチャゴ〜」

 

懐かしかった。

二人で写真を指差しながら、そこであったことなど思い出し、喋りあった。

しあわせだった。

 

粋なプレゼントを、わたしは神様からもらったような気がした。 

 

本当はこの旅は、イヴと共に歩くはずだった。

二人でカミーノ・ノルテを、「北の道」を歩く予定だったのだ。

だがイヴが病気になり、それは叶わなくなった。

けれど私は今、旅の最後にまたカミーノに戻ってきたのだ。

 

巡礼よ。来年、またおいで。

 

・・・そう言われたようだった。

 

 

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