Etape6 Les Quatre-Chemins ~ Saint-Chély-d'Aubrac ①
Etape6 Les Quatre-Chemins ~ Saint-Chély-d'Aubrac① 25km?
朝。ウルリケが玄関の外を指さして私に言った。
「MIKI、外はノエル(クリスマス)よ!」
みると粉雪がじゃんじゃん舞っている。
まさに12月。
え、今日はまだ4月でしょ。4月2日ですよね? タイムスリップしちゃった?
私とウルリケは抱き合い、それぞれの国の言葉で「やばッ〜〜〜!」と叫んだ。
ウルリケ「(真剣に)MIKI、私は歩くのが遅いから、朝食べずに出発する」
わたし 「わかった。私はゆっくり食べてから行くね」
雪は一向に止む気配がなかった。
オーナーのマリはそんな状況など気にも留めず、笑顔でさらっと私に言った。
「細かい雪だから大丈夫よ〜」
それにしても私は、はっきりいってナメていた、ルピュイの道!
雪道対策を何もしてこなかったのだ!(←ばか〜)
とはいえ、覚悟を決めて行かねばなるまい。
ストームクルーザーの下にダウンを着込み、手袋をはめ、私は出発した。
雪の上に残る足跡は、大きさからいってもウルリケだと思った。
一人分しかないということは、先に歩いている巡礼は彼女一人だ。
道が正しいことを確認しつつ、私も雪の上に足跡を残して歩いた。
時々、後から来るかもしれない巡礼のために、他の印も雪の上に残した。
落ちてる枝で矢印を作ったり、ハートを描いたり。
それが意外と役に立ったと知ったのは後の事。
歩くにつれて細かい雪は激しさを増し、風も非常に強くなった。
見渡す限り家もない、人もいない。寒い。
私はまた熱が出てくるのを感じた。
そうだ、まだ風邪ひいてたんだ・・・。
Nasbinals
まったく覚えていないが聖堂にも立ち寄ったらしい。
写真の撮影位置から推測するとナスビナル。
L'église Sainte-Marie de Nasbinals
この小さな村には休憩所があった。
中に入ると黒いポンチョのおじさんがいて、スマホを確認していた。
見ていたのがカミーノ・アプリだったので、私は彼に尋ねた。
わたし 「(フランス語で)今日、雪はまだ続く?」
黒ポンチョ「Oui」
間
わたし 「あなたはどこまで行くの?」
黒ポンチョ「オブラック・・・可能なら。君は?」
わたし 「オブラック。私も。可能なら」
間
黒ポンチョ「明日も雪だよ」
それから、彼はさっと立って歩き出した。
私はボン・シュマンと言って、彼を見送った。
それから冷たい手でリュックのポケットからチョコレートを探し、口に入れた。
トイレを済ませ、装備を整え、ペットボトルに水を補給して出発した。
前を歩いている黒いポンチョを見つけたのは、歩行再開10分もたたない頃。
彼は足を引きずっていた。
怪我しているのか、もともと足が悪いのか。
ゆっくり、ゆっくり。カタツムリのように、ゆっくり歩いていた。
雪の音しか聞こえない、白い道を行く黒い男。
タルコフスキーの映画のようだった。
彼はあのペースで、この山道を越えられるのだろうか。
なぜ、あんな足で彼は歩いているのか?
私たちは軽くアイコンタクトをして、別れた。
Aubrac
そしてここからがさらに悲惨だった。
吹雪は嵐になった。
私の手袋はびしょびしょに濡れて、なんの役にも立たなくなっていた。
ストックは雪に何度も埋れたせいで、先端の突起がもげてしまった。
なんじゃこりゃあああああ〜!
聞いてないよぉ〜、こんなのおおおおお〜!
熱は出てくるわ、鼻水は止まらないわ、メガネに雪がついて見えないわ。
泣けてきた。
一面の雪に覆われて、どこを歩いているのか標識すらわからない。
誰もいない。
道のどこからが歩道なのかもわからず、時々ズボッと雪溜まりにはまる。
背の低い私は胸まで雪に埋まると、なかなか脱出できない。
「遭難」という二文字が頭に浮かんだ。
ただし、一つだけ希望があった。
目の前にうっすらと足跡が残されてあったのだ。
ウルリケのではない。大人の男性のもの。二本のストックを使っている。
吹雪で彼の足跡が消えてしまう前に、この後をついていけばいいのだ。
そしたら、いずれオブラックの村に出る。宿に着く。
私は目を凝らし、獲物を追う動物のように足跡を追って行った。
オブラックの標高は1368m。
ここが5月まで雪が降り、昔から難所と言われる場所だと知ったのは、
帰国後のこと。
私は初めて命の危険をひしひし感じながら、必死で歩いていた。
9kgの重さのリュックもうらめしい。
こんなことになるなんて思ってなかったよ〜、何やってんだ〜私!
めっちゃ寒いのに、汗びっしょり。
鼻水もたらたら出るが、ティッシュの予備はすでになかった。
もういいや、と思い、雪玉をつかんでそれで鼻を拭った。(ヒィィィ・・・)
後で見ると、鼻の下は真っ赤になっていた。やるもんじゃないです。(当然です)
しかしもう、歩くしかない。笑うしかない。
あまりの悲惨さに、私は大声で神さまに祈った。
「神さまッ! どうか生きてオブラックに辿り着けますようにッ〜〜〜〜!」
はたして、神さまは願いを聞いてくださったのだが・・・。
それはそれで悲惨な状況はまだまだ続くのだった。