カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

Etape10  Conques ~ Livinhac-le-Haut①

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Etape10  Conques ~ Livinhac-le-Haut  23,5km①

 

朝靄の中、コンクを出発。これが波乱万丈の一日の始まりになるなんて思いもせず。

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La chapelle Saint-Roch

 

ルピュイの道は、GR65。

赤と白のラインか、GR65の表示を追っている限り、道には迷わない。

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La chapelle Saint-Roch de Noailhac

 

ノアイヤック付近。聖ロクスに捧げられた小さな礼拝堂。

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今、振り返ると予言されていたかのよう。

この礼拝堂の聖人(聖ロクス)は足に怪我をしていて、犬が横にいた。

それはこの日、数時間後に私の身に起こること・・・。

 

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しばらくはD580という道を直進する。

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道を間違えたのはこの後。

分岐点があったのだが、どれがGR65なのかわからなかった。

(この時すでに間違えていたのかもしれない)

 

私は直感で、なんとなくカミーノっぽい下り坂を選び、下った。(ダメです)

しばらく歩くと民家が並ぶ小さな集落に出た。

カミーノのディレクションは依然として見当たらない。

完璧に間違えているとわかったが、不思議と不安はなかった。

 

と、突き当たりの民家の角から、5才くらいの女の子が飛び出してきた。

私を見て立ち止まり、「ママ!」と叫んで消えた。

 数秒後に、若いママが少女と一緒に出てきた。

 

ママ 「(私が巡礼だと理解し)まあ、あなた道を間違えたのね」

わたし「はい」

ママ 「どこまで行くの?」

わたし「Decazaville」←とりあえず近くの大きな町の名前を言った

ママ 「どこから歩いてきたの? コンク?」

わたし「はい」

ママ 「じゃあ坂を下ったでしょ? あそこ下っちゃいけなかったのよ」

わたし「下りました。私、間違えたんですね」

ママ 「正しい道まで案内するわ。でも説明が・・・ちょっと待ってて」

 

若いママは家に引き返した。

しばらく待っていると、若いパパと友達が、少女とママと一緒に出てきた。

 

パパ 「(なめらかな日本語で)日本人?」

わたし「(日本語)日本人です!」

パパ 「私は日本語すこしできます」

わたし「Génial!」(天才〜!)

みんな「!!!(大笑い)」

 

若いパパは、パリで4年間日本人に剣道を習っていたそうだ。

そこで日本語や日本文化を勉強したと言った。

二人は結婚してパリに住んでいたが、二年前ここに転居してきたのだという。

一緒にいたのは友達で、ヴァカンス中。

みんな揃って、私を正しい道まで案内してくれた。(ヒマだったらしい)

 

ママ  「(高台から見下ろし)見える? あそこがDecazavilleよ」

わたし 「あ〜・・・(結構遠い)」

友達  「(指差して)あの丘の上にpilonがあるでしょ。あの向こうが近道!」

わたし 「pilon・・・(日本語)あの避雷針のことだな」

ママ  「この丘をどこまでもどこまでもまっすぐ越えるの」

わたし 「(復唱して)どこまでもどこまでもまっすぐ越える」

ママ  「pilonを過ぎたら、まっすぐ降りて、右の道へ行くの」

わたし 「(復唱する)」

ママ  「そしたらGR65に出るわ。Decazavilleは右よ」

わたし 「(多分)わかった! ありがとう!」

 

まだ花の咲いていないタンポポの丘を、私はpilon目指して登って行った。

親切な一家は、姿が見えなくなるまで、ずっと手を振って見送ってくれた。

私は何度も何度も大声でお礼を言った。

 

頂上のpilonに着いて見下ろすと、眼下にドゥカズビルの町が見えた。大きい町だ。

とにかくあの方向へ行けばいいのだ。今度はどんどん下った。

 

するとママが言っていた通り、目の前に道が見えた。

GR65と書かれた標識もあった! 良かった! もう大丈夫だ!

私はほっとした。

 

それにしても、日本語が話せるフランス人にここで会える確率って・・・。

カミーノの神さまは粋な計らいをなさる、と私は思った。

 

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Decazaville

 

しかし、最悪の事態はこの後に私を待っていた。

きっと一生忘れないだろう、この町の名前を。ドゥカズビル!

 

町の中心は巡礼道から外れていたので、通過してもよかった。

でも、まだ時間もあるしと思って、私は散策に行ったのだ。

まずは聖堂へ、それから食糧を調達へ。

けれどこの日は日曜日。町は死んだように静かで誰もいなかった。

 

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オープンしていたのはケーキ屋さんのみ。ブタのケーキって可愛いけどどうなのさ。

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私は特別に、ハーフサイズのバゲットでサンドイッチを作ってもらった。

聖堂の前のベンチでそれを食べ、また誰もいない町を抜けて巡礼道へ入った。

 

歩くこと数十分。 それは突然襲ってきた。

 

背後から何かがとびかかってきたのだ!

何? と振り向くまもなく目に入った大きな黒と白の塊は・・・。

 

野犬じゃん。

 

5・6匹いる! 超吠えてる! やばいッ! 超やばい!

私は杖を持っていたが、追い払う勇気がなくフリーズしていた。

フリーズしながら、ともかく大声で叫んだ。

 

やだああああ〜〜〜! あっちいってよ〜〜〜!

 

どうしようどうしよう。なすすべもなく、泣きそうになる。

と、黒い一匹が寄ってきたので、思わず反射的に杖で打ってしまった。

 

すると奴は・・・

 

GABUUUUUU・・・(噛んだあああ!)

 

私は杖を振り回してぎゃあぎゃあ叫んだ。

しかし誰もいない誰もこない。

 犬はしばらく吠えていたが、私が叫び続けたせいか、突然いなくなった。

いなくなったのは良かったが、私の太腿は噛まれて血塗れになっていた。

 

なんじゃああああああ・・・・いたぁああああああい!

 

消毒! 消毒という単語はフランス語でなんというのか教えて欲しい!

手当てもしたいけど、町は全力でお休み中だ。

薬局も観光案内所も今日に限って開いてない。

と、とにかく予約していたジットまでたどり着かねば〜〜〜〜!

痛いよ痛いよ〜! やばいよ〜! 水場はどこ〜〜!

なんかの毒がまわって、足を切断なんてことになったらどうしよう。

ってか死んだらどうしよう。こんなことで死んだらアホやん。

海外旅行保険入っておいて良かった。いやいや良くない良くないよおお!

 

神さま ヤコブさま 私を歩かせてください!

 

私は本気で祈った。祈りながら、泣きながら、全力で歩いた。

たった一人で、それでもともかく、前に向かって歩いていた。

 

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