巡礼9日目 出会いは奇蹟。その後ろに流れている大いなる意志に身を委ねる。
巡礼9日目 ログローニョ → ナヘラ
巡礼道を歩いていると話しかけてくる、ローカルのスペイン人たちの親切さ。
「今日君が泊まるアルベルゲはあっちだ」
「君は○○のカテドラルに行くべきだ」
「この町の○○は食べたほうがいい」
「向こうの方が近道だ」とか、いろいろ。
スペイン語はわからない。
でも伝えたがっている気持ちはガッチリ伝わる。
町のガイドをしようという人もいて、
ガイド料を取られたらどうしようと思ったけど、杞憂だった。
彼らは本当に単純に自分の町を愛していた。
そして本当に単純に町に来る人間を愛していた。
一期一会のカタコトの会話はいつも、明るい光に満ちていた。
大きな町で黄色い矢印を見失い、迷ったときもそうだった。
いつも誰かが絶妙なタイミングで現れて、正しい道を教えてくれた。
「ブエン・カミーノ!(良い巡礼旅を!)」といって去って行く。
その背中に天使の羽根を見たような気がして、思わず合掌したものだ。(合掌かい)
おそらくそのようなこともあり、私は地図をあまり見なくなった。
その日の目的地も決めなくなった。
必要な情報はどこからか、誰かがくれる。無心でそれに従っていくことにした。
予定を決めると予定通りのことしか起きないけど、
何も決めなければなんだって起こりうる。
そっちのほうが楽しいし、ワクワクする。世界は信じられる。
この日のアルベルゲも地元の人が教えてくれたところだった。
ガイドブックに載っていない、ドナティーボ(寄付制)の宿。
だけどオープンが15時で、まだ30分あった。
おまけに小雨が降ってきた。
雨宿りする場所を探していると、
エステージャのアルベルゲで会ったハイジのおじさんに会った。
おじさんは、
「あっちにアルベルゲがあるぞ」と教えてくれた。
「もうオープンしているから、そっちへ行け」と言った。
けれど私は最初にローカルの人が教えてくれた宿で、15時まで待つことにした。
ハイジのおじさんは別のアルベルゲへ行った。
ありがとう、おじさん。
大きく手を振って別れた。
そしてもうおじさんとは二度と会わないのだ。
私の選択は大正解だった。
親切なオスピタレイロ(宿の管理人)。
一番乗りのベッドはきれいだし、シャワーも水じゃなく、あたたかかった。
洗濯をすませて、シェスタのあけた町へ。
美術館に行ったり、バールへ行ったり。
朝から28キロ以上歩いているのに、まだ歩けてしまう。
新しい景色が新鮮でたまらない。
疲れたらバールに入って「カフェコンレチェ」か「コラカオ」を飲む。
「コラカオ」はスペインのホットココア。
これが本当に美味しくて、やみつきだった。
「アイ・コラカオ?(コラカオありますか?)」
バールに入るたびに質問していた。
あるに決まってるだろうに、つい言いたくなってしまうのだ。
同じココアでも店によって味が違った。
ミルクや泡のたて方、温度が違うだけで変わるのだ。
その違いを味わうのも楽しかった。
小さな雑貨店では、ペンネやトマトやチーズやバゲットを仕入れる。
非常食の干しぶどうやフィグ。チョコレートは必携。
これで明日のご飯もおやつも万全だっ!
ナヘラの町は巨大な崖が町を覆っていて、日本では見られない異様な光景。
その崖の下を小雨の中、私はどんどん歩いた。
足に豆すらない私はいたって元気で、どこまでだって歩ける気がしていた。
途中でキムさん一家とイレーヌにまた会った。
昨日のアルベルゲは最悪だったらしく、異口同音で言う。
「シャワーが水だった!」
「うるさいいびきの奴らがいっぱいいた!」
「遅くまで騒がしかった!」
良かった、ペンションで!
キムさんママの情報によると、明日は雨らしい。
「通常ルートでなく、ショートカットして近道を行く方がいい」
と、アドヴァイスをくれた。
これで明日の道が決まった。