カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼10日目① 誰かから与えられる言葉は、次の冒険への切符なのだ。

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巡礼10日目① ナヘラ → グラニョン

 

この日は試練の一日だった。午前中はゆっくり歩いた。

道の途中でイレーヌに会った。彼女は言った。

 

「今日泊まるならグラニョン。そこにいいアルベルゲがある」

 

そのアルベルゲの何がいいのか、英語力の乏しい私にはわからなかった。

でもとにかくグラニョンに泊まることにした。

誰かから与えられる言葉は、次の冒険への切符なのだ。

 

 私はイレーヌに、プエンテ・ラ・レイナで見た悪夢の話をした。

どうしても誰かにきいてほしかったのだ。

たどたどしい英語で、一生懸命伝えた。

イレーヌはきいてくれた。嬉しかった。

 

カミーノで出会った人たちの中で、

私が最初に勇気を出して名前をきいたのがイレーヌだった。

ストイックに休まず歩き続ける私と違って、

イレーヌはバールでゆっくりするのが好きだった。

だから一緒に歩くことはあまりなかった。

それでもたまに再会しては、短時間、だらだら並んで歩いたことは忘れられない。

  

 

道の途中で、キムさんパパと二人の息子にも会った。

この頃はもうお互いにうちとけていて、お菓子を交換したりした。

二人の息子たちも笑顔で私のお菓子を食べてくれた。

キムさんパパはいつも穏やか。優しい笑顔でゆっくり話しかけてくれた。

 

カミーノを親子で巡礼するのは、キムさんパパの夢だったのだそうだ。

敬虔なカトリック教徒のキムさんパパならではの夢。

それをいま、叶えているのだ。素晴らしい。

 

 

さらに少し歩くと、今度はキムさんママに会った。

キムさんママはいつも誰よりも先に歩き始める。

「歩くのが遅いから先に出るの」とよく言っていた。

ベンチに座って靴下を脱ぎ、足をマッサージしているキムさんママの姿は、

巡礼スタイルにも関わらず、きれいだった。

 

ママ 「うちの子供たちに会った?」

わたし「会った。パパも一緒だった」

ママ 「今日あなたに会ったら、わたし言おうと思っていたの」

 

そう言ってキムさんママは、三つの日本語を私に伝えた。

 

「こんにちは」

「げんきですか」

「ありがとう」

 

その日本語の美しさに、私は感激してしまった。

 

カムサハムニダ

 

そう答えて、なんだかそれでは足りなくて、もっと喋りたかった。

でも、言葉にならない。

 

「サラン・・・サラン・・・愛してますって、なんだっけ?」

そう聞いたら、キムさんママは答えた。

 「サランヘヨー」

 

 

この日は他にも韓国人夫婦に会った。

(巡礼中に会った韓国人は、なぜだか全員キムさんだった)

「韓国人?」とたずねられ、「日本人」と答えると、

「ナイストゥーミーチュー!」

と、笑顔で握手を求めてきた。

大人しそうな奥さんはオレンジを取り出して、私にくれた。

二人は仲良く写真を撮りながら、ゆっくり歩いていた。

 

 

自転車で巡礼している三人のスペイン人にも会った。

30代くらいの、いかにもラテン系な男たち。

彼らは私を見て自転車を止め、こう聞いた。

「Todo bien?」 

よくわからないで答えられずにいると、もう一度くりかえして聞いた。

「Todo bien〜?」 

「 あー、Bien! Bien! びえーん!」

元気よく答えると、陽気な三人組は声をそろえて言った。 

「Buen Camino!」

そしてまた陽気に去って行った。

この道を歩く人はみんな友達。カミーノに国籍は存在しないのだ。

 

私は最高にハッピーだった。

午後を過ぎて雲行きが怪しくなり、大雨が降ってくる、そのときまでは・・・。

 

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