カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼10日目② 犬が吠えるのは前兆。小さな違和感を無視しないこと。

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巡礼10日目② ナヘラ → グラニョン

 

私道に入って巡礼道を逸れるたび、

家畜が騒いだり、犬が吠えたりしたものだ。

だから「犬が吠える」のは前兆だと思ってずっと用心していた。

 

けれど私はだんだんカミーノに慣れてきていた。

だからこの日の午後、

鶏や犬たちが私に向かって騒ぎ立てたときも、

さほど気にせず、ずんずん先へ進んだ。

 

本当は、心にちょっと引っかかりはあったのだ。

小さな違和感のようなものが・・・。

けれどその小さな感覚を、私は無視した。

 

 

黄色い矢印が途切れてしまっていた。

でもまだ悠長に、私は歩いていた。

きっともうすぐ矢印がある。だからもうちょっと歩こう。

もうちょっとしたら、きっとある。もうちょっと・・・。

 

けれど矢印はまったく見当たらない。

冷たい風がごうごう吹いた。

 

大きな国道に出て、道が違うと本気で感じはじめたとき、

風が冷たい雨に変わった。

小さな違和感は大きな不安に変化した。

レインスーツを着込んで、

とにかく来た道を引き返そうと辺りを見渡した。

 

けれど・・・帰る道がよくわからない!

 

雨は激しく、嵐のようになってきた。

ここはアラスカか! と思うくらいに寒かった。

とにかく教会の屋根が見える方向へ行こう!

サント・ドミンゴ教会のある方へ!

教会のトンガリ屋根がありがたかった。

 

ずぶぬれでがたがた震えながら息を切らして歩いていくと、

犬の声。

鶏や犬たちが吠えた道まで戻って来た。

道の真ん中で、おじいさんが何か私に叫んでいる。

怒っているようだ。ここが私道だからか?

しかし手招きしている。

おそるおそる近づく。

スペイン語なのでよくわからないが、

私に向かって大声で訴えているのは確かだ。

走ってそばへ寄ってみた。

 

「おまえは道を間違えとるっ!」

そんなようなことをおじいさんは言った。

「巡礼道は戻ってderecha(右)じゃあ!」

 

おじいさんは怒っているのではなく、

心配してくれていたのだった。

そして私が道を間違えた地点まで、

車で送ってくれると言った! ありがたい!

 

車に乗り込むと、嘘みたいに雨がやんだ。

そして一気に晴れてきた。

青空の晴れ間に、教会の尖塔が光った。

 

「あれがサント・ドミンゴですね」

私が言うと、おじいさんはそうだと答えた。

そしてこう言った。

「君が進むべきpueblo(村)は、あっちだ!」

 

道に迷って、すでに一時間以上時間をロスしていたし、

雨に濡れてかなり疲労していたので、

私はもう先へは進まず、サント・ドミンゴまで戻ろうと思っていた。

けれどおじいさんは大声で、命令するように私に言った。

 

「おまえが行くのはあっちだっ!」

 

・・・はい、わかりました、サンチャゴの神様。

私は予定通り次の村、グラニョンまで歩きます・・・。

 

大声で怒鳴っているように見えるおじいさんは、

声がでかくてアクションが派手なだけの、

めちゃめちゃ優しいスペインじいちゃんなのだった。

 

私はお礼を言って車を降りた。

でっかい声のおじいちゃんと握手し、ハグして別れた。

 

「ブエンカミーノ!(良い旅を!)」

  

カミーノの矢印が曲がり角に立っていた。

ああ、見覚えがある。

ここで道を間違えたのだ。

そういえば、ここでも小さな違和感が心をよぎった。

でもそれを無視して、私は先へ進んだのだった・・・。

 

 

分岐点から、グラニョンに向かって私はまた歩き出した。

犬の声とおじいちゃんの姿が小さくなった。

すでに午後。すでに結構クタクタ。

 

けれどこの日の試練は、まだまだ続くのだった。

 

 

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