カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

巡礼12日目② 荷物の詰め方一つにも、人生がにじみ出る

f:id:parasuatena2005:20180225010403j:plain



巡礼12日目② アタプエルカ

 

アタプエルカのアルベルゲに着くやいなや、ベッドに倒れ込んだ。

腰が痛くてたまらなかったのだ。

8〜9キロの重さのあるバックパックのせいだろうか。

これまでの疲れが一気に来たのだろうか。

今後のことを考えると不安になった。

 

腰が痛くて歩けないなんて、想像もしていなかったよ〜!

足にマメ一つないのに!

病気になって巡礼断念するなんて、考えてなかったよ〜!

情けなくて、痛くて、不安で・・・涙が出てきた。

 

アルベルゲの部屋には、私を含めて四人の女性がいた。

イレーヌと、ワシントンDCから来た実業家のビッキー。

それから足の長い黒人女性。

 

みんな楽しそうに話しているが、私は寝袋にくるまって一人で泣いていた。

黒人女性とビッキーが部屋を出て行ったあと、イレーヌが眠っている私に話しかけた。

 

イレーヌ「ハーイ、どうしたの?」

わたし 「・・・・・・」

イレーヌ「ハーイ?」

わたし 「(子供のように訴える。しかも日本語で)腰が痛いの!!」

イレーヌ「・・・・・・」

わたし 「(泣きながら腰をおさえて泣く)腰が痛いのおおおお〜〜〜!!」

イレーヌ「・・・・・・」

わたし 「びええええ〜ん!!」

イレーヌ「・・・(自分のバックパックからティッシュと薬を出してくる)」

わたし 「・・・・・・」

イレーヌ「(手渡して)薬は一回3錠。強いから、飲みすぎちゃダメ」

わたし 「(ティッシュで鼻をかみ、日本語で)・・・ありがとう」

イレーヌ「(バンドエイドを数枚出して振る)はい、これもあげる。ハローキティー♡」

 

ハローキティーのバンドエイド(ピンク色)を、イレーヌは私にくれた。

涙が笑いに変わって弾けた。今泣いたカラスがなんとやら・・・。

二人でしばらく大笑いした。

 

わたし 「イレーヌありがとう!・・・You are very kind!  Very thanks! 」

 

イレーヌは笑って部屋を出て行った。

一人きりになった部屋に、ほっこりとした優しい空気が残った。

 

私は多分、淋しかったのだと思う。誰かに甘えたかったのだと思う。

痛みと不安と言葉が通じないもどかしさとで、心がいっぱいになっていた。

いい年をして子供みたいに人前で泣いた自分に、自分でもびっくりしたけれど、

飾りっけなしの自分で存在できていることの、誇らしさも感じた。

 

薬を飲んで休んでいるとビッキーが入ってきた。

イレーヌから聞いたらしく、彼女も薬をくれた。

 

ビッキー「アスピリン。一週間分」

わたし 「・・・ありがとう」

ビッキー「・・・(微笑む)」

わたし 「カミーノの巡礼は、みんな優しい!」

ビッキー「・・・(うなずく)」

わたし 「あなたも優しい! You are my angel!」

ビッキー「私はビッグ・ハートなの(と、ウインクして去る)」

 

ビッキーと話したのはこの日だけだ。彼女はこの日、ひっきりなしに電話していた。

イレーヌの情報によると、彼女は大きなプロジェクトを抱えているらしかった。

多忙な現実を抜けて巡礼に出るなんて、よほどの事情があったのだと思う。

 

ビッキーのベッドの周辺は合理的に整理されていて、

彼女がとても有能であることが察せられた。

荷物の詰め込みや整理の仕方一つにも、その人の人生がにじみ出る。

 

そのアルベルゲにはWi-Fiがなかった。

だからみんな隣の、Wi-Fiのあるレストランに行ってしまった。

 

束の間の、恩寵のように静かなアルベルゲの夕刻だった。

泣きつかれてお腹がすいた私は、誰もいないキッチンに立った。

スペインのIHコンロはシンプルなデザイン。

シンプルすぎて最初は使い方がわからない。

でも私は前にハイジのおじさんに教えてもらったから、使えるのだった。

 

一人で食事をしていたら、初老のおじさん巡礼が来た。

コンロの使い方がわからないらしい。教えてあげた。

 

わたし 「(日本語で)ここをこうして、ここを押す」

 

するとその初老のおじさんは、ダコーと答えた。フランス人だ。

 

わたし 「(フランス語で)あなたはフランス人ですか?」

おじさん「(フランス語で。笑顔で)フランス人です。あなたは?」

わたし 「(フランス語で)私は日本人です。(英語で)英語、話せますか?」

おじさん「(はにかんで英語で)少し少し」

わたし 「(英語で)私も少し少し。(フランス語で)でも私は少しフランス語話します」

おじさん「(嬉しそうに)フランス語を話すのは久しぶりです」

 

彼はイヴと名乗った。なんとフランスのヴェズレーから歩いているという!

スペインに入ってからフランス人には一人も会わず、

フランス語が話せないので淋しかったようだ。

カタコトのフランス語で、私たちの会話は弾んだ。

地図とノートとペンを取り出して、これまでのルートやこれからの計画について話した。

 

私がフランス語を勉強していたのは10年以上前。仏検3級まではもっていた。

それがこんなところで役に立つとは・・・。

腰の痛みはどこへやら。

わたしはリラックスして会話を楽しんでいる自分を感じていた。

 

イヴ 「明日は君はどこまで歩くの?」

わたし「ブルゴスまで。22キロ。あなたは?」

イヴ 「その先。ぼくはいつも30キロ歩く」

わたし「いつも30キロ!・・・私はそんなに歩けない!」

イブ 「(微笑んで)君は、到着点はサンチャゴ?」

わたし「フィステーラ!」

イブ 「ぼくもだよ。フィステーラまで歩く」

わたし「え〜歩くの! 私はバスで行く〜!」

 

初対面なのに懐かしい人というのが、たまにいる。

イヴはまさしくそういう人だった。

また会えたらいいなと思ったけど、私は毎日30キロも歩けない。

もう会わないと思い、「A demain(また明日)」と言って別れた。

 

 

夜。腰の痛みは消えていた。

生理がいつもより早くきたのが原因だった。安堵した。

 

かみさま、ありがとうございます。

 

明日もカミーノを歩くことができる、その有り難さが身にしみてわかった。

心から感謝して、私は眠りについた。

 

 にほんブログ村 旅行ブログ スペイン旅行へ
にほんブログ村