Etape16 Vaylats ~ Cahors②
Etape 16 Vaylats ~ Cahors② 24km
家が見えるという、それだけのことがただ嬉しい。
人が前を歩いているという、それだけのことがただ嬉しい。
だから人に会うと話しかけてしまう。話しかけられてしまう。
道の分岐点で標識を確認していたら、初老のムッシューに話しかけられた。
ムッシュー「日本人ですか〜?」
わたし 「はい」
ムッシュー「どこから来たの〜?」
わたし 「東京です」
ムッシュー「僕は新宿で働いてたんだよ〜、オダキュー知ってる〜?」
ムッシューは1984年から3年間、日本でパティシエとして働いていたという。
新宿の小田急百貨店にあるフランス料理店。
今はリタイヤして、お散歩人生だそうだ。
「今、僕は仕事な〜し。毎日平和〜。時々こうやって歩く〜」
ムッシューは歌うように話した。
日本の人と話せて嬉しかったと言われて、握手して別れた。
『Je suis malade』
真っ赤なトレッキングウェアを着たセルジュは、顔も真っ赤だった。
まん丸に太ったお腹はパンパンで、額からは汗がたらたら流れていた。
道の途中に設けられた、ベンチと水場のある休憩所。
先に座っていたセルジュに私は名前を聞き、隣に座った。
セルジュ「あなたは今日、何キロ歩きますか?」
わたし 「24キロ」
セルジュ「(びっくりして)24キロ! すごいな!」
わたし 「あなたは?」
セルジュ「8キロ。何しろ(自分の腹を叩いて)これだからね!」
わたし 「・・・(笑って、オレンジを半分渡す)」
セルジュ「・・・(受け取って、食べる)」
間
わたし 「セルジュって、セルジュ・ゲンズブールのセルジュ?」
セルジュ「セルジュ・ゲンズブールは古い。セルジュ・ラマのセルジュだ」
わたし 「セルジュ・ラマ? 誰それ?」
セルジュ「(スマホで動画検索して)歌手だ」
彼のスマホを覗くと、眉毛の太い男が哀切な歌を歌っていた。
セルジュ「・・・『Je suis malade』、いい歌だ」
わたし 「『Je suis malade』! やだそんな歌〜」←直訳(私は病気)
セルジュ「歌詞がいいんだ。センチメンタルで。〜♪(一緒に歌い出す)」
わたし 「・・・(メモする)」
セルジュ「こっちもいい。セルジュ・レジアーニ(検索する)」
わたし 「セルジュ・レジアーニ?」
セルジュ「(スマホを見せて)歌手で、俳優だ」
わたし 「イタリア人みたいな名前」
セルジュ「イタリア人だ。〜♪(一緒に歌う)」
わたし 「・・・(メモする)」
セルジュはスマホでいろんな歌を検索して、教えてくれた。
楽しくなって二人で盛り上がった。
それから彼はリュックからお菓子を出して私にくれた。
私はお礼を言って受け取り、折紙の鶴を彼にあげた。
と、彼の表情が一変した。
セルジュ「これは・・・!」
わたし 「鶴。この鳥は日本では平和のシンボルなの。あなたにあげます」
セルジュ「(立ち上がり小さい声で)ミラクルだ!」
会話体で書くと長いので、以下、メモした文章をそのまま転記する。
セルジュはフットボールの試合で、日本に家族と行ったことがある。
息子はそれ以来日本が大好きで、折り紙に凝っている。
今でも本だけは買ってくるが、上手に折れない。
パパこれどうやったらいいの、とよく聞かれる。
でも自分もうまく折れない。
特にこれ(ツル)は難しい。
それがこんなところでこれ(ツル)に会えるなんて。
ミラクルだ。
セルジュ「サラに電話する。ちょっと待ってて」
わたし 「・・・」
セルジュ「サラっていうのは娘だ。アンシーに住んでる。きっと喜ぶ」
なんだかよくわからなかったが、私は電話に出て、サラと喋った。
セルジュは興奮して横から喋りまくった。
セルジュ「(電話を切って)この道は奇跡の道だと聞いてたけど本当だった」
わたし 「それは本当」
間
セルジュ「(立ち上がって)俺、日本のメルシー、やります!」
わたし 「・・・?」
セルジュ「(日本語で)アリガトーザイマス!(ペコリと可愛くお辞儀)」
わたし 「(爆笑しながら感激して)どういたしまして!(お辞儀)」
Cahors
ご機嫌な気分のままカオールに到着。カオールは大都市だ。
赤ワインの産地としても有名である。
街の入り口にカミーノのホタテ印がデカデカと掲げられた店があった。
中を覗くと、筋肉質なおじさんが出てきて私に言った。
おじさん「君はMIKIだね!」
わたし 「(びっくり)はい。・・・なんで???」
おじさん「君のことは知ってる。入って!」
おじさんは店のP Cを操作し、私に画面を見せた。
誰かのFacebookに、私が折った「ツル」の写真が映っていた。
わたし 「(日本語で)これ、私のだ・・・!」
おじさん「ジョエルとブリジッド、知ってるだろ?」
わたし 「はい」
おじさん「ここに昨日きたんだ。君の話をした。ジャン・マリからも聞いた」
わたし 「ジャン・マリとエルディー。知ってます」
おじさん「みんなFacebookで君について書いてる」
私の知らないところで、私についての情報がサイトを飛び交っていた。
巡礼者だけの繋がりがあって、それをこの店のおじさんはチェックしていたのだ。
おじさん「ついに会えた。MIKI 、一緒に写真撮ってくれ」
わたし 「は、はい」
Le pont Valentré
ロット川に沿って、観光名所の一つであるヴァラントレ橋が見えてきた。
この先の塔の上には、悪魔がしがみついているという。
早速見に行った。
悪魔ちゃ〜ん、どこ〜?
いた〜! しがみついとる〜!
Auberge de jeunesse (ユースホステル)
会員サイトから予約しておいたユースはヴァラントレ橋のすぐ近くだった。
受付のマダムは、私が徒歩巡礼だというと「安くなる」と教えてくれた。
安くなって嬉しかったが、あいにくサンチーム(小銭)がなかった。
大きいお札しかないからカードで、と言ったら、マダムはまけてくれた。
「いいわよ、私がそのくらい払っておくから❤️」
このアバウトさ、いいねフランス!
おまけ。イースター用のチョコレート。
相変わらずビッグサイズだよ動物たち。
そして醤油がこんなに・・・!
キッコーマーーーン!!!