カミーノ ことばの巡礼  

深いところで私を変えたカミーノ巡礼。記憶を言葉に還していきます。

Etape19 Labastide-Murat ~ Rocamadour

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Etape 19  Labastide-Murat ~ Rocamadour 28km

 

雨だった。レインスーツの下にダウンを着込み、黙々と歩く。

私と同じ方向へ進む人は誰もいない。

反対からやってくる巡礼者もわずか数名。挨拶だけ交わし、一人で進む。

 

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それは突然見えてきた。

そそり立つ断崖に身を寄せるように、建物が並ぶ異様な光景。

 

ロカマドールだ。

 

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Rocamadour

 

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村に入ると、歓迎されたかのように雨が止んだ。

メインストリートに出たら、降って湧いたような大勢の観光客! 

中世の面影を残した色とりどりの店が立ち並んでいる。

巡礼道とは打って変わった賑やかさに、キツネにつままれた感満載。

 

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ロカマドールへのアクセスは車のみ。

鉄道駅のある一番近くの村からは徒歩で1時間半。

歩いてくる人はほとんどいない。

私のようにカオールから三日かけて歩く人は・・・ほぼ皆無。

 

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『Accueil chrétien Le Cantou』

 

黒マリアさまの聖堂はすぐ近く。急な階段を登った先にある。

まずは宿で荷物を置こうと、私は予約していた宿『Le Cantou』のドアを開けた。

 

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f:id:parasuatena2005:20190417073643j:plain 共有スペース
 

この日は一人部屋。窓からは・・・崖。

 

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この宿は聖域にあり、独自のミサもおこなっていた。

18時にvêpresがあるからいらっしゃいと受付のマダムに言われた。

vêpresが何か知らなかったが、出席しますと私は答えた。

 

Sanctuaire de la Vierge Noire

 

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さすがは秘境の観光地。いろんな言語が飛び交っている。

日本語も聞こえた。初老の男性グループだった。

何人かとちょっと目があったが、なんとなく話しかけなかった。

 

私は観光案内所で明日の宿を予約し、お土産を物色した。

大好きなシトロン(レモン)のクレープも食べた。

フランスに来ると絶対食べるシトロンのクレープ(シンプルでおいしい)。

日本ではあまり売ってないのは需要がないから? レモンが高いから??

 

ちなみに日本語のガイドブックも売っていたが、鳥肌レベルの翻訳。

コンクでもそうだったけど、誰かなんとかして差し上げて・・・。

 

f:id:parasuatena2005:20190416175034j:plain この階段を上がって行く

f:id:parasuatena2005:20190416175119j:plain 階段から見下ろす

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f:id:parasuatena2005:20190416163445j:plain この中に黒マリア様!

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いた〜〜〜〜〜〜!!

 

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やっと会えた黒いマリア様は、小さいけれど威厳に溢れていた。

Sublime(崇高)という言葉がふさわしい。う〜ん圧倒・・・。

私は最前列で、感謝を捧げた。感涙。

 

マリア様・・・!

来させてくださって、ありがとうございます!

 

それからしばらく最前列のベンチに座っていた。

入ってくる人は誰もいなかった。

蝋燭の火がゆらゆら揺らめいて、夢の中にいるようだった。

 

と、不意にマリア様の声が聞こえた。(気がした)

 

「ね。バスが来なくて良かったでしょう?」

 

・・・はい。良かったです、アヴェ・マリア

 

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夜。私は宿でvêpres(夜の祈り)に参加し、信者さん達と聖書を読んだ。

たどたどしく、マリア様の歌も歌った。もっとフランス語を覚えたいと強く思った。

 

f:id:parasuatena2005:20190416162354j:plain お祈りの部屋

 

Chemin de la Croix

 

翌朝。私はまたサンクチュアリに出かけ、マリア様にご挨拶。

それから「十字架の道」へ出かけた。

すでに宿をチェックアウトしていたから背中のリュックが重かった。

けれど私は階段を何段も何段も登って、歩き続けた。

 

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私は「運ばれた」のかもしれない、とふと思う。

この巡礼に出るまでは、ロカマドールに徒歩で行くなんて思ってもいなかったのだ。

そんなことが自分にできるなんて考えてもいなかった。

でも結局、そのような流れがあって私は導かれた。

自分一人で成し遂げることなど何もない。

 

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ちなみにこの日。パリではノートルダム大聖堂が燃えていた。

でもwifiのない私は知る由もなかった。

 

www.sanctuairerocamadour.com

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Etape18 Vers ~ Labastide-Murat

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Etape 18  Vers  ~  Labastide-Murat 24km

 

この日、ラバスティッド・ミュラーに到着するまでに会ったのは4人だけ。

反対方向から来た二人の巡礼と、羊飼いのばあちゃんと、「ひふみん」だ。

 

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もちろん将棋の「ひふみん」本人ではない。でもものすごく似ていたのだ。

丸顔で頬が紅くて、超カワイイ笑顔のおじいちゃんだった。

私が道を確認していたとき、彼は車でやってきて止まってくれた。

そして満面の笑顔で道を教えてくれた。

 

「どこから来たの? 何日歩いてるの? 今日は何キロ歩くの?」

「ひゃーすごいねえ〜! ウヒャウヒャウヒャ(と笑う)」

「僕ね、このコミューンに住んでるの。車で散歩中」

「前は自転車で1000キロ走ったんだよ〜! ウヒャウヒャ」

 

運転席の「ひふみん」は、私の「腕抜き」にも興味津々だった。

そう、私は「腕抜き」を両腕に装着していたのである。

 

「腕抜き」。これは100均で買える画期的な巡礼用品(?)だ。

暑くなったらサッと脱いで半袖になれるし、日が陰ったら長袖になる。

軽いしすぐ渇くし良いことづくめなのだ。

私が腕抜きをとったり外したりして見せると、「ひふみん」は感嘆した。

 

GR 46 苔むす森の道

 

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GR 46。苔むした異界の巡礼道。鳥の声しかしない。誰もいない。

 

f:id:parasuatena2005:20190415094446j:plain まっすぐ行って左へ曲がる 

f:id:parasuatena2005:20190415094506j:plain 行っちゃダメ!

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私は昨日、宿でみんなが喋っていた一人の巡礼を思い出していた。

野宿しながらプラハから3000キロ以上歩いている巡礼がいるというのだ。

彼はお金を持ってないから、出会った人に食べ物をもらっているという。

 

私も、どこでだったか忘れたが、不思議な青年とすれ違っていた。

ボロボロの赤いセーターを着て、手ぶらで巡礼道を歩いていた。

挨拶だけしてすれ違った。(危険なオーラを感じた)

夢見るような目つきで、トロンと歩いていた。東欧風の瞳だった。

彼かも知れない、と私は思った。

 

フランス人の道を歩いた時もチェコの巡礼と出会ったが、彼も野宿していた。

やっぱり夢見るような目つきで、ゆっくりゆっくり歩いていた。

それにしても無銭巡礼なんて・・・。もはや「旅」ではない、「放浪」だ。 

 

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だんだん思考することもなくなってくる。

景色に同化して、ただ歩いている体があるだけになる。

 

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この小さな集落で、羊を放牧するおばあちゃんに会った。

羊が放たれて一筋の道のように走っていくのを私は初めてみた。

感動モンだった。

 

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そしてまた誰一人いない道を行く。

地面は柔らかく、空気は湿っている。

土と木々の匂いに包まれて、ただ歩く。

・・・私も景色の一部であった。

 

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『Le Savitri』

 

この日の宿はVersのオーナーが予約しておいてくれた『Le Savitri』。

管理者はヴェロニクという女性。

気さくな明るいおばちゃんだった。

普段は役所に勤めていて、ここには住んでないそうだ。

 

二階にあるドミトリーは一見、ダニがいそうなベッド。(いなかった)

使い古されたシーツやタオルが山と積まれていた。(でも清潔)

狭いキッチンには、凹んだ鍋やバラバラのカトラリー。(ま、問題なし)

常備してある調味料や食料品は賞味期限を要確認。(OKだった)

普通だったら泊まらないかもしれない古い宿。(だがここしかない)

 

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今夜は一人と思っていたら、夕方にフランス人の四人組がやってきた。

奥のスペースに陣取り、一つしかないラジエーター(暖房)を奪っていった。

仕方がないから毛布を沢山使って夜の寒さに備えた。

 

いよいよ、明日はロカマドールだ。

黒いマリア様に会えると思うと、胸が躍った。

 

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Etape17 Cahors ~ Vers (voie de Rocamadour)

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Etape 17  Cahors  ~  Vers (voie de Rocamadour) 18km

 

ここからはカミーノ・ルート(GR65)から一時的に離れる。

ロカマドールへ行くために、私は次のような行程を立てた。

 

1 Cahors → Vers  18km 

2 Vers → Lavastide-Murat  24km

3 Lavastid-Murat → Rocamadour  28km(ロカマドールで一泊)

4 Rocamadour → Gramat  15km(修道院を予約)

5 Gramat → Lacapelle Marival  25km(宿はないのでホテルを予約)

6 Lacapelle Marival → Figeac  21km(フィジャックに戻る)

7 Figeac → Cahors (en bus)→ ?(バスで移動後、カオールより先へ歩く)

 

普通、ロカマドールを目指す巡礼はフィジャックから歩き出す。

しかし私はその逆をいくため、お遍路でいうところの「逆打ち」をするわけだ。

そのためガイドブックも標識も逆から読まねばならない。

 

第一日目のこの日は、ロット川に沿って進むGR 36のヴァリアンテ。

地図によると、途中から川を外れて山に入っていく。

 

昨日のうちに観光案内所から予約していた宿は16時オープン。

どんなにゆっくり歩いても時間があるので、私は大聖堂へ出かけた。

 

La cathédrale Saint Etienne

 

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サン・テティエンヌ大聖堂は早朝にもかかわらず人で溢れていた。

どうやら特別なミサがあるらしい。

手に枝を持った人たちが沢山いたので『枝の主日』であることがわかった。

イースターまであと一週間なのだ。

 

聖堂の入口で配布されたビラを読むと、今年は聖堂建立900年記念!

さらに『Sainte Coiffe』という特別な聖遺物が公開されるという。

『Sainte Coiffe』がなんだか全くわからなかったが、興味深かった。

(知ってる方、教えてください・・・)

 

f:id:parasuatena2005:20200307152110j:plain  イエスの埋葬時に頭を包んだ聖遺物???

 

ミサが始まるまで時間があったし、堂内はものすごく寒かった。

私はミサを諦めて歩き出そうと聖堂を出た。と、一人のシスターに制された。

 

「あなた巡礼でしょ。今日のミサはスペシャルだからいなさい!」

 

そして彼女は私の腕をつかみ、アリーナ席(?)へ座らせた。

神の使者の言葉だ。仕方ない。流れにまかせ、待つこと数十分。

 

堂内には信者たちがわらわらと押し寄せ、席の争奪戦が始まった。

私の隣には厳しい表情のムッシューが座った。

彼は、空いている席に物を置いてキープしようとするマダムたちをたしなめた。

 

パイプオルガンが鳴り、司祭と聖歌隊が入ってきた。

が、司祭による枝の祝福は堂内の別の場所で行われるようだった。

信者たちがまたわらわらと移動する。

隣のムッシューは、私が枝を持っていないのを見て言った。

 

「あなたはここにいますか? 席、見ててくださいますか?」

 

私はウイと答え、寒さに震えながら、枝の祝福が終わるのを待った。

 

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日本と違って時間通りに進行しないから、いつミサが始まるかわからなかった。

が、もうこうなったら最後までいてやるのだ。

と、左側のブロックに見慣れたアメリカ人の巡礼を発見。

 

ジュニファーや〜〜〜ん!!!

 

私は二つの席にリュックを置いて、彼女のところに駆け寄った。

そうだよね、ジェニファーはクリスチャンだもん。そりゃいるよね〜。

私たちは寒さに震えながら再会を喜びあった。

 

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ようやく枝を持った人たちが帰ってきた。

隣のムッシューも戻ってきて礼を言い、自分の枝を一本私にくれた。

そしてやっとミサが始まった。

まず最初に『主の祈り』をみなさんで唱えましょう、と司祭が言った。

 

それなら言えますよッ!

 

私はみんなと一緒にフランス語で祈りを唱えた。

すると隣のムッシューは、私を信者と勘違いしたようだった。

配られたミサの紙を指差しながら、次はここだ、などと教えてくれる。

Vaylatsのクロディーのようだった。ありがたかった。

ミサの後、私は彼に折り鶴を渡した。ムッシューは笑顔になった。

 

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G R36 variante par la rive du Lot

 

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そしてロット川に沿って私は歩き出した。

すぐ左は川だから、滑って落ちたら危険な道である。

しかも石だらけのクネクネ曲がった細い道。ひと一人しか通れない狭さだ。

なのに、なぜだ!

自転車に乗ったレース野郎どもが向こうから何台も走ってやってくる!

 

なんやねん、あんたら〜!

なんでこんなとこチャリで来るんじゃあ〜!

 

私は彼らが来る度に立ち止まり、道を譲った。

自転車野郎どもは超早口で「メルシ」と言いながら走り去った。

 

流石に「逆打ち」だけあって、私と同じ方向で歩く者は誰もいない。

今までもだって巡礼者にほとんど会わなかったのに、今はさらに会わない。

 

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山に入ると晴れてきた。迷わないように、慎重に標識を確認しながら進んだ。

 

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Vers

 

Versに到着。市役所の隣、とガイドブックに記された宿に向かう。

宿の名前は『Le monde allant Vers』。

 

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「カオールから遡ってロカマドールへ行く巡礼は、君が二人目だ」

「宿を始めてから三人の日本人が泊まったが、フランス語を話すのは君が初めてだ」

 

 オーナーは私にそう言った。

 

ここでは、ルピュイのミサで一緒だったベルギー人夫婦とも再会した。

イヴォンと奥さんのクロディーヌ。

サンシェリーの宿でも一度会い、マヌケな私が映っている動画をくれた二人だ。

二人はロカマドールから戻ってきたところだった。

 

他にもフランス人の若いカップルと、オーナーの従兄とその姪がいた。

従兄と姪はモンサンミッシェルに住んでいるという。

行ってみたいと私が言うと、いつでもおいでと住所を書いて渡してくれた。

 

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ここでは夕食時、みんなから質問攻めにあった。

どうしてカミーノを知ってるのか、なぜ歩いているのか・・・etc。

私は一生懸命、知ってる限りのフランス語を駆使して喋った。

 

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宿のオーナーは、カミーノで人生が変わったと静かに語った。

彼が巡礼宿を開くまでの物語を、赤ワインを飲みながらみんなで聴いた。

 

翌日の朝、出発前。

クロディーヌが望んだので日本語で名前を書いてあげたら、大喜びされた。

二人のキャラクターをもとに、知恵を絞ってこんな漢字をあててみた。

 

クロディーヌ 黒帝犬

イヴォン 衣翻

 

これは去年、その二人から届いたニューイヤー・メール。

 

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www.lemondeallantvers.fr

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Etape16 Vaylats ~ Cahors②

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Etape 16  Vaylats  ~  Cahors② 24km

 

家が見えるという、それだけのことがただ嬉しい。

人が前を歩いているという、それだけのことがただ嬉しい。

だから人に会うと話しかけてしまう。話しかけられてしまう。

 

道の分岐点で標識を確認していたら、初老のムッシューに話しかけられた。

 

ムッシュー「日本人ですか〜?」 

わたし  「はい」

ムッシュー「どこから来たの〜?」

わたし  「東京です」

ムッシュー「僕は新宿で働いてたんだよ〜、オダキュー知ってる〜?」

 

ムッシューは1984年から3年間、日本でパティシエとして働いていたという。

新宿の小田急百貨店にあるフランス料理店。

今はリタイヤして、お散歩人生だそうだ。

 

「今、僕は仕事な〜し。毎日平和〜。時々こうやって歩く〜」

 

ムッシューは歌うように話した。

日本の人と話せて嬉しかったと言われて、握手して別れた。

 

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『Je suis malade』

 

真っ赤なトレッキングウェアを着たセルジュは、顔も真っ赤だった。

まん丸に太ったお腹はパンパンで、額からは汗がたらたら流れていた。

 

道の途中に設けられた、ベンチと水場のある休憩所。

先に座っていたセルジュに私は名前を聞き、隣に座った。

 

セルジュ「あなたは今日、何キロ歩きますか?」

わたし 「24キロ」

セルジュ「(びっくりして)24キロ! すごいな!」

わたし 「あなたは?」

セルジュ「8キロ。何しろ(自分の腹を叩いて)これだからね!」

わたし 「・・・(笑って、オレンジを半分渡す)」

セルジュ「・・・(受け取って、食べる)」

        間

わたし 「セルジュって、セルジュ・ゲンズブールのセルジュ?」

セルジュ「セルジュ・ゲンズブールは古い。セルジュ・ラマのセルジュだ」

わたし 「セルジュ・ラマ? 誰それ?」

セルジュ「(スマホで動画検索して)歌手だ」

 

彼のスマホを覗くと、眉毛の太い男が哀切な歌を歌っていた。

 

セルジュ「・・・『Je suis malade』、いい歌だ」

わたし 「『Je suis malade』! やだそんな歌〜」←直訳(私は病気)

セルジュ「歌詞がいいんだ。センチメンタルで。〜♪(一緒に歌い出す)」

わたし 「・・・(メモする)」

セルジュ「こっちもいい。セルジュ・レジアーニ(検索する)」

わたし 「セルジュ・レジアーニ?」

セルジュ「(スマホを見せて)歌手で、俳優だ」

わたし 「イタリア人みたいな名前」

セルジュ「イタリア人だ。〜♪(一緒に歌う)」

わたし 「・・・(メモする)」

 

セルジュはスマホでいろんな歌を検索して、教えてくれた。

楽しくなって二人で盛り上がった。

それから彼はリュックからお菓子を出して私にくれた。

私はお礼を言って受け取り、折紙の鶴を彼にあげた。

と、彼の表情が一変した。

 

セルジュ「これは・・・!」

わたし 「鶴。この鳥は日本では平和のシンボルなの。あなたにあげます」

セルジュ「(立ち上がり小さい声で)ラクルだ!

  

会話体で書くと長いので、以下、メモした文章をそのまま転記する。

 

セルジュはフットボールの試合で、日本に家族と行ったことがある。

息子はそれ以来日本が大好きで、折り紙に凝っている。

今でも本だけは買ってくるが、上手に折れない。

パパこれどうやったらいいの、とよく聞かれる。

でも自分もうまく折れない。

特にこれ(ツル)は難しい。

それがこんなところでこれ(ツル)に会えるなんて。

ラクルだ。

 

セルジュ「サラに電話する。ちょっと待ってて」

わたし 「・・・」

セルジュ「サラっていうのは娘だ。アンシーに住んでる。きっと喜ぶ」

 

なんだかよくわからなかったが、私は電話に出て、サラと喋った。

セルジュは興奮して横から喋りまくった。

 

セルジュ「(電話を切って)この道は奇跡の道だと聞いてたけど本当だった」

わたし 「それは本当」

        間

セルジュ「(立ち上がって)俺、日本のメルシー、やります!」

わたし 「・・・?」

セルジュ「(日本語で)アリガトーザイマス!(ペコリと可愛くお辞儀)」

わたし 「(爆笑しながら感激して)どういたしまして!(お辞儀)」

 

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Cahors

 

ご機嫌な気分のままカオールに到着。カオールは大都市だ。

赤ワインの産地としても有名である。

 

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街の入り口にカミーノのホタテ印がデカデカと掲げられた店があった。

中を覗くと、筋肉質なおじさんが出てきて私に言った。

 

おじさん「君はMIKIだね!」

わたし 「(びっくり)はい。・・・なんで???」

おじさん「君のことは知ってる。入って!」

 

おじさんは店のP Cを操作し、私に画面を見せた。

誰かのFacebookに、私が折った「ツル」の写真が映っていた。

 

わたし 「(日本語で)これ、私のだ・・・!」

おじさん「ジョエルとブリジッド、知ってるだろ?」

わたし 「はい」

おじさん「ここに昨日きたんだ。君の話をした。ジャン・マリからも聞いた」

わたし 「ジャン・マリとエルディー。知ってます」

おじさん「みんなFacebookで君について書いてる」

 

私の知らないところで、私についての情報がサイトを飛び交っていた。

巡礼者だけの繋がりがあって、それをこの店のおじさんはチェックしていたのだ。

 

おじさん「ついに会えた。MIKI 、一緒に写真撮ってくれ」

わたし 「は、はい」

 

Le pont Valentré

 

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ロット川に沿って、観光名所の一つであるヴァラントレ橋が見えてきた。

 

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この先の塔の上には、悪魔がしがみついているという。

早速見に行った。

悪魔ちゃ〜ん、どこ〜?

 

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いた〜! しがみついとる〜!

  

Auberge de jeunesse (ユースホステル

 

会員サイトから予約しておいたユースはヴァラントレ橋のすぐ近くだった。

受付のマダムは、私が徒歩巡礼だというと「安くなる」と教えてくれた。

安くなって嬉しかったが、あいにくサンチーム(小銭)がなかった。

大きいお札しかないからカードで、と言ったら、マダムはまけてくれた。

 

「いいわよ、私がそのくらい払っておくから❤️」

 

このアバウトさ、いいねフランス!

 

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おまけ。イースター用のチョコレート。

相変わらずビッグサイズだよ動物たち。

 

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そして醤油がこんなに・・・! 

 

キッコーマーーーン!!!

 

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Etape16 Vaylats ~ Cahors①

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Etape 16  Vaylats  ~  Cahors① 24km

 

クロディーに見送られた後、ジェニファーと一緒に歩き始めた。

彼女はCaminoアプリを持っているので道に迷う心配はなかった。

ジェニファーと話しながら私は痛感していた。

 

ああ、英語をもっとベンキョ〜していたら良かった〜!

 

幸い彼女は頭が良かったので、私のデタラメ英単語の羅列を理解してくれた。

 

彼女はこれまで、旦那さんと世界中を旅したそうだ。

行きたいと思ったところには行くんだって言ってた。

 

フロリダ出身。旦那さんはユナイテッドステイト航空のパイロット。

旦那さんも子供たちも、彼女をこの旅へ快く送り出してくれたという。

今回の彼女の終点は、もちろんサンチャゴ・コンポステーラだ。

 

「本当は北の道を歩きたいと思って、ガイドブックを買っていたの」

「でも色々調べて、北の道は自分には難しいと思った」

「だからフランス人の道に変更することにしたの」

 

私は自分が歩いたフランス人の道の素晴らしさについて、彼女にシェアした。

泊まって欲しいおすすめのアルベルゲについても。

また、今回の旅で犬に噛まれたことも、この時に話した。

彼女はびっくりしていた。

ロカマドール行きのバスは来なかったけど、それで良かったことも私は伝えた。

 

わたし   「Because, because・・・ I could meet you!」

ジェニファー「・・・(笑ってうなづく)」

わたし   「I could go to ・・・that monastery!」

ジェニファー「・・・(うなづく)」

わたし   「I think・・・I think・・・Everything is a gift!」

          間

ジェニファー「I agree」

 

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しばらく二人で歩き、またねと言って別れた。

歩く速度が違うから、気を遣ってしまう。気を遣われてしまう。

それは私は嫌だった。

カオールでは別の宿に泊まるから、もう会えないかもしれなかった。

でもFacebookでつながっていたから、さびしいとは思わなかった。

 

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道がないッ!

 

と、パニックになったのは、この先だった。

ちょうど国道を横切って巡礼道に入るはずの地点。

地図によると確かにそこから道が延びているはずなのに道がない。

どこにも道が見あたらない。

あるのは道路に沿って続いている岩壁ばかり。

 

私は何度も行ったり来たりして道を探した。

わからない。

標識のあった場所まで引き返して確認した。

標識はあった。

そこまでは道があっていたということだ。でもこの先は・・・。

 

木陰に一台のキャンピングカーが泊まっていた。

運転席にいたおじさんに私は声をかけた。

おじさんは気さくで、おしゃべりだった。

 

「僕、スイス人なの。フランスとの国境近くに住んでるの」

「家内と一緒に旅してるの。家内はいま奥にいるの」

「カオールへ行くのは・・・よくわからないんだけどね」

「あ、そうだ。道路地図があるから見てあげるね!(と、開く)」 

「う〜ん、あの高速道路を右の方に行くんだね、多分」

「でもよくわからない。(ニコニコ)ごめんなさいね〜!」

 

そこでもう一度私は、道があるはずの地点に立ち、maps.meを広げた。

maps.me・・・このアプリは最終手段として役に立つ。

最初にダウンロードしておく必要はあるのだが、wifiがなくても地図が見れるのだ。

 

そのmaps.meによると、確かにその場所に小さな文字でcheminと書いてあった。

「chemin=道」

道はある。

 

ふと、私は目の前でぴょんぴょんジャンプした。

と、・・・道が見えた。

 

道があるッ! 

 

あったのだ、岩壁の上に道がっ!

目の前の岩壁をよく見ると、雪崩の後のように不自然に崩れている。

私は岩に手でしがみつき、注意深く足をかけ、よじ登った。

リュックが重かったけど、頑張った。

 

はたして。

登った先には嘘のように、巡礼道の風景が広がっていた。

左手にあっけらかんと、普通に道が続いている。

 

なんじゃあ、これぁあああ〜・・・!

 

多分、私は身長が低いから、見えなかったのだ。

目線が高いヨーロピアンたちはきちんと道を認識し、よじ登って行ったのだろう。

それにしても・・・。

こういうところこそなんか表示しておいてよ〜、カミーノ!

 

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歩きながら。

私はボイスメモに、その日あったことなどを忘れないように録音していた。

(ノートに書ききれないものは録音するに限るのだ)

時々立ち止まって、鳥の声や川の流れる音なども録音していた。

 

それらを参考にしながら、今この日記を書いている。

この日のボイスメモには、次のような詩(呟き)も吹き込まれていた。

 

体が君を連れていくのに任せることだ

考えながら歩いてはいけないよ

思考が歩いてしまうから

感じながら ただ歩いていけばいい

 

体は自然と一緒になって君を導いている

言葉や知識より確かに

目の前のものを見て、聞いて、触れて

無防備に 心を開いていけばいい

 

それでも思考はやってくる

鳥が木に止まるように

ならばそのままにしておけばいい

鳥はやがて枝から離れて飛び立っていく

 

ああ いい天気

地面に伸びている自分の影が 歩いている

 

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こんなことも喋っていた。

「次の旅に必要なもの」!

なんと私は旅しながら、次の旅のことをもう考えていたのだ。

 

「次の旅に必要なもの」

半袖のモンベルのインナー ストック二本、軽いもの

靴下は長いもの 五本指靴下、これも長めのもの、三足 

ジップロック ウェットテッシュ 

コットン 赤チン 消毒液 葛根湯は少し多めに 繕うのに必要な色の糸

ゴアテックスの手袋 小さい石鹸 タッパー 簡単な英語を学ぶこと

フランス語は単語、構文、それから文法をさらう ディクテ 

聴く、話すを教材で これは独学でいい

リアルスピードのフランス語になれること 

 

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Etape15 Limogne-en-Quercy ~ Vaylats②

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Etape 15  Limogne-en-Quercy ~  Vaylats② 16km

 

ジェニファーは私が来たことに大喜びだった。

案内係のクロディーは私たちを歓迎した。

 

英語の話せるクロディーは白髪のおばあちゃん。

私にはフランス語で、ジェニファーには英語で説明した。

でも時々英単語がわからなくなり、瞬間的にパニックになる。

そしてフランス語で私に「なんていうんだっけ?」と質問する。

私は単語だけは即答できたので役に立った。

三人で一生懸命、それぞれの言いたいことを理解しあい、笑いあった。

 

クロディー 「ジェニファー、あなたはクリスチャン?」

ジェニファー「YES」

クロディー 「MIKIは?」

わたし   「Non。でも私はカテドラルやマリア様が大好きです!」

ジェニファー「MIKI、カトリックじゃないの?(びっくり)」

わたし   「(おずおずと)クリスチャンじゃなくても、泊まれます?」

クロディー 「もちろんよ」

 

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寝室棟は離れた場所にあった。

二階へ上がり、一部屋にベッドが三つある清楚な部屋の鍵をもらう。

クロディーは最初、私とジェニファーを同部屋にする予定だった。

が、ジェニファーがそれを断った。

 

「私はいびきがうるさいから、一緒だと彼女が眠れない。もし良ければ・・・」

 

クロディーは了解してくれた。

いびきのおかげで、一人一部屋の贅沢! ありがとう〜!

 

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窓の外には大きな庭。青空と緑が美しい。

ジェニファーが隣の部屋から顔を出し、「シャワーお先にどうぞ」と言った。

彼女はいつもそうなのだ。なんでも自分を人より後にする。

私は好意に甘えて、ありがたく先にシャワーを浴びた。

 

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シャワーの後はお洗濯。天気がいいからもりもり洗いたい。

でも何しろ敷地が広いので、洗濯場の場所がわからない。

うろうろしていると、ちょうどジェニファーがシャワーをすませて出てきた。

彼女も洗濯場を探しているらしい。

 

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私たちはクロディーに聞きに行った。洗濯場は別棟だった。

クロディーはわざわざ出てきて、リネンの積まれた石の洗濯場へ案内してくれた。

そして石鹸やバケツを補充し、手洗いのデモンストレーションまでしてくれた。

 

クロディー「こうやって、手で力を入れてこするッ! そしてこっちですすぐッ!」

わたし  「(日本語で)はいッ!」

 

小さな子供に説明するお母さんのよう。私たちは素直に説明を聞き、感謝した。

 

ジェニファー「MIKI・・・(先に洗濯して、というアクション)」

         間

わたし   「Together!」

 

私たちは二人で一緒に互いの洗濯物を洗い、すすぎ、二人で絞った。

 

L'église de Vaylats

 

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クロディー「聖堂はこの時間、閉まっているの。こっちから入って」

 

それから私たちは聖堂へ案内してもらった。

91才だというおじいちゃん司祭が裏口の鍵を開けてくれた。

 

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こんな田舎にどうしてこんな立派な聖堂があるのか。

歴史的なことを聞きたかったから質問したものの、司祭の説明が全く理解できない。

ああ、もっとフランス語がわかったらなあと超絶思った。

司祭は私たち二人の為に全ての電気をつけ、ゆっくり見る時間を割いてくれた。

 

Couvent de Vaylats

 

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修道院の中にももちろん教会や礼拝堂があった。

こちらも美しかった。(写真は小礼拝堂)

私たちは夕食前にミサにあずかり、シスターたちと一緒に祈りを捧げた。

 

この修道院は一般客用のホテルと高齢者のための施設(ホスピス)も兼ねていた。

だからだろう、ミサには車椅子の方や認知症と思われるおばあさんもいた。

彼らをケアしているシスターたちの方が高齢だったのが印象的だった。

 

夕食は野菜スープに魚料理が出た。

お芋の入ったお粥のようなサイドメニューも出て、何から何まで美味しかった。

みんなから勧められるままに、私はいっぱいお代わりしてしまった。

シスターたちは笑顔で、給仕しながら話しかけてくれる。

クロディーも私たちと同席し、いろいろ教えてくれた。

 

クロディー 「あのシスターは92才よ」

わたし   「92才!」

ジェニファー「若い人はいないの?」

クロディー 「若い人は今、修道院に入らない」

 

おばあちゃんシスターズは、くるくると見事に働いた。

決して押し付けがましくはない、「奉仕」の精神を感じた。

性別を超越したような彼女たちはたくましく、そして明るかった。

 

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部屋に戻って私は考えた。

どうしてシスターたちはあんなにホスピタリティーに溢れているのだろうか。

信仰から、それは来るのだろうか?

だとしたら信仰とは何なのだろう?

 

私はスペインでもフランスでも、たくさんの教会でミサにあずかってきた。

でもミサとは一体何なのか、知らなかった。

それは失礼ではないか。

ただ巡礼だからといって泊めてもらってきたけど、それでいいのだろうか?

 

なにか、なにか、彼女たちに感謝を表したかった。

折り鶴、それは渡せる。いくらだって折れる。

でももっと、ここでは違う何かで伝えたかった。

 

私はその晩、「主の祈り」をフランス語で丸暗記した。

 

「Notre Père」

 

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翌朝。食事のテーブルで、私はみんなに折り鶴を渡した。

それから、92才のシスターの手を握って言った。

 

「私は昨日、主の祈りを覚えました。感謝を込めて言います」

 

Notre Père qui es aux cieux, que ton nom soit sanctifié,

que ton règne vienne que ta volonté soit faite sur la terre comme au ciel.

Donne-nous aujourd'hui notre pain de ce jour.

Pardonne-nous nos offenses comme nous pardonnons aussi à ceux

qui nous ont offensés, et ne nous soumets pas à la tentation,

mais délivre-nous du mal. Amen!

 

シスターは目を丸くした。それから私を抱きしめた。

一緒にいたクロディーは私の手を引いて、別のシスターのところへ連れて行った。

 

クロディー「はい、言ってッ!」

わたし  「(日本語で)はいッ!」

 

私は何人ものシスターのところで「主の祈り」を唱えることになった。

(おかげでそれは思いっきり体に入ってしまった)

聞いてくれたシスターたちは喜んで私の手を握り、抱きしめた。

 

出発前。

クロディーは私を朝のミサにこっそり入れてくれた。

近しい信者しかいないミサ。

柔らかな光の中で司祭が進行する。

おこがましいと最初は断ったけど、クロディーは真剣だった。

 

聖書を開き、聖句を指差し、クロディーは私の横で導いてくれた。

私もたどたどしくフランス語の聖書をともに朗読し、聖歌を歌った。

 

クロディー「(ウィスパーで)次、主の祈りよ」

わたし  「・・・(うなづいて)」

 

涙が溢れて止まらなかった。

ハンカチで拭いても拭いても鼻水が出てきて恥ずかしかった。

鼻をすすりながら私は、「主の祈り」をフランス語で一緒に唱えた。

 

ミサが終わると、クロディーは私の目をじっと見て言った。

 

クロディー「MIKI、あなたは来年またここにいらっしゃい」

わたし  「・・・」

クロディー「三月に来る? 四月? 私ここにいるようにするから」

わたし  「・・・はい」

クロディー「(お茶目に)ここで洗礼受けちゃいなさい」

 

教会の入口近くで祈りを捧げていたジェニファーが、私たちに合図した。

出発の時間だ。

私たちはクロディーからリンゴとバナナとオレンジを渡された。

 

ジェニファーに教えてもらわなかったら、来ることのなかった修道院

そこが、また戻ってきたいと思う場所になってしまっていた。

 

ロカマドール行きのバスが来なかったのは、悪いことじゃなかった。

全ては導かれ、守られている。

 

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Etape15 Limogne-en-Quercy ~ Vaylats①

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Etape 15  Limogne-en-Quercy ~  Vaylats① 16km

 

タンポポの畑で寝転んでいた。

靴下も脱いで裸足で。

誰もいない 誰もいない ただ鳥の声と風だけ・・・

 

Vaylatsまでの距離は16Kmだったから、ゆっくり歩いても昼前には着いてしまう。

修道院の受付が開くまで、時間があった。

受付も開いた直後だとシスターたちは忙しいはず。

もう少し経ってから行こうと思い、私はタンポポのベッドに寝転んだ。

 

この日歩いてきた道も、最高だった!

 

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Bach

 

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バッハという小さな村。

美しい教会で、しばし休む。

 

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教会があることで、どんなに私は救われたことだろう。

休息できるし、雨宿りできるし、祈ることができる。

誰にでも扉は開いている。

 

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ステンドグラスによる祝福。

反射する光の美しさ。

思わずバカみたいに口を開けて、見入ってしまう・・・

 

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Toilettes publiques

 

この地域には、立派な公衆トイレもあった。

水もちゃんと出るし、ペーパーもあるし、ゴミ箱もある。

アンぺカーブル!

 

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私がここに着いた時、

30代位のお姉さんがちょうど掃除をし終わったところで、ピカピカだった。

嬉しくなった私はお姉さんに、オーバーアクションでお礼を言った。

お姉さんは「どういたしまして」と笑った。

 

掃除用具をマイカーに積んで、お姉さんは去って行った。

村の人たちが交代で管理しているのだろう。

みんな、善意に満ちている。

公共施設の清潔さで、住民の民度の高さがわかってしまう。

 

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ちなみに。

私の、犬に噛まれた傷は着実に癒えてきていた。

応急手当をしてくれたベルナールとジャン・ピエール、

泊まったジッドのジャン・マリとエルディー。みんなのおかげだ。

 

歩けるということは素晴らしい。

 

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ほどなく、いきなり標識が現れた。

誰も通らない田舎道の、さらに細道。

蝶々がひらひら舞って、私を誘った。

 

私はmaps. meを開いて、そこから修道院までの距離を確認した。

近い。まっすぐ行ったら、あっという間に着いてしまう。

到着してしまうのがもったいなくて、私はゆっくりゆっくり歩いた。

 

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太陽の下でたっぷり充電し、そしてまた歩き出す。

 

・・・と、墓地に出た。

花で彩られたパラディ。天使像もいっぱい。

 

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Couvent de Vaylats (Filles de Jésus)

 

修道院に到着。予想以上に大きい、古い建物だ。

開いている門から入って、受付へ。

 

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・・・さて、と私は思案する。

ここで分かちあった素晴らしい一日を、どう書いたらいいのだろう。

とにかく私は本当に歓迎された。

 

80代のシスターたちのホスピタリティーの素晴らしさと、底抜けの明るさ。

出された料理の美味しさ。

一緒にあずかったミサの神聖さ。

忘れられないことが多すぎる。

 

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受付で名前を告げ予約を確認すると、別室へ移動するように言われた。

そこで設備や食事などの説明をするとのこと。

重いリュックを背負ったまま別室に行くと、先客の巡礼がいた。

 

・・・それは、もちろんジェニファーだ。

 

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