Le Puy-en-Velay 未来の声に導かれて旅をする
Le Puy-en-Velay
ルピュイのノートルダム大聖堂。
朝のミサは小礼拝堂で行われた。
黒いマリア様の前で、敬虔にひざまづくシスターたち。
その後ろに、これから出発する巡礼たち数名。
ミサの後、司祭が巡礼を祝福し、問いかける。
「どこから来たの?」
ドイツ、ベルギー、アメリカ、フランス国内、日本(私)。
フランス人の、耳が聞こえにくい方々のグループが一緒だった。
手話で通訳が入る。
司祭がまた問いかける。
「英語とフランス語、どちらで説明を聞きたい?」
「英語」
という声が多かったので、残念ながら以後の説明は私にはよくわからなかった。
途中で失礼して売店へ行き、クレデンシャル(巡礼者手帳)を買った。
クレデンシャルに名前を記入して、日付を入れてもらう。
レジにいた若いシスターが、私の名前を見て驚いて言った。
シスター「あなた、MIKIって名前なの。日本人?」
わたし 「はい」
シスター「びっくり! 私の姪もMIKIっていう名前なの!」
わたし 「フランス人・・・ですよね?」
シスター「私の兄、日本が大好きでね。何度も行ってるの。
それで日本のMIKIって名前がきれいだからって、娘に名付けたの」
わたし 「ほんとに〜?」
シスター「でもMIKIっていう名前の日本人に会ったのは初めて!」
思いがけない名前のシンクロニシティーが、嬉しかった。
Cathédrale Notre-Dame du Puy
聖堂を出て、ルピュイの街を歩いてまわった。
今日の目的地は16キロ先のモンボネだったから、昼から歩き始めても大丈夫なのだ。
クリミア戦争時の大砲を鋳直して造られたという聖母子像は、この街のシンボル。
高さ16メートル。隆起した奇岩の上に堂々と立っていた。
そしてもう一つの奇岩の上に建つのは、
大天使ミカエルに捧げられたサン・ミシェル・デギュイユ礼拝堂。
あそこだ、あそこまで行かなくちゃ。
長い階段を歩いて登り、美しいタンパンの前に出る。
中に入る。
誰もいない堂内は静かで、ひんやりしていた。
古い時代のフレスコ画が美しい。
ロウソクに火をともし、祈った。
神聖な空間。
キリスト教が入ってくるずっと前から、ここは信仰の場だったのだ。
そういえば。
ノートルダム大聖堂にも古い時代のドルメン「熱病の石」があった。
病に苦しんでいた女性が、その石に触れることで治癒したという。
一説によると、彼女は聖母マリアを石の上に幻視したともいう。
それらはキリスト教が入ってから結びついた伝承かもしれない。
でもはるか昔から、「岩」「石」にこもるエネルギーを人々は感じていたのだろう。
La pierre des fièvres
言葉を忘れるような自然の風景に出会う時、人は畏敬の念にうたれる。
そしてその場所を神聖化する。
そして人は祈る。
手を合わせる。
私も祈った。
私をここへ運んできたすべての巡りに、感謝した。
どうして「そこへ」行こうと思うのか?
それは「その場所へ行った未来」が呼ぶからだ。
私たちは未来の声に導かれて旅をする。
もう昼。
他の巡礼は誰もいない。
私はエピスリーでパンとオレンジと水を買った。
雑貨店で速乾性のTシャツと、ガイドブックも手に入れた。
そしてゆっくり、モンボネに向けて出発した。