Etape 2 Montbonnet ~ Monistrol-d'Allier
Etape 2 Montbonnet ~ Montistrol-d'Allier 15km
朝8時に出発。
ものすごい風だった。
山道がやばかった。
3分くらいだけど迷った。
下を向いて歩いていて(考え事にとらわれて)、ディレクションを見落としたのだ。
ここで迷うのはさすがに危険。
だって誰もいないんだもん、カミーノ・ルピュイ!
これから絶対、泊まる宿も前日に予約しておこう。
なんかあった時のための保険になる。
そんなことを考えながら、風邪で熱のある体で山道を歩いた。
St-Privat-d'Allier。
町のカフェでは、数名の巡礼たちがお茶を飲んでいた。
おお、やはり、いるではないか、いるではないか。
ルピュイの大聖堂で一緒にミサにあずかった人たちではなかった。
それでも巡礼がいるということが、私をほっとさせた。
パン屋でクロワッサンを買って、ベンチで食べた。
町の地図によると、少し離れたところに教会があるらしかった。
よし行こう!
熱があっても、遠回りでも、私は教会に行くのだ。
町に戻る途中で、声をかけられた。
「パン屋さんを探してるんだけど。どこにあるか知ってる?」
見ると、60代くらいのおばあさん巡礼。
青いポンチョを羽織り、木の枝を杖の代わりに持っていた。
「知ってます! あっちです。一緒に行きましょう」
私はうれしくなってパン屋まで案内した。
おばあさんはいろいろ話しかけてきたが、その英語がよくわからない。
「フランス語で話してください」
そう言うと、おばあさんはフランス語に切り替えた。
「どこからきたの?」
「日本から。あなたは?」
「ドイツよ。私はドイツ人」
「ドイツ〜。どこの街?」
「Stuttgart」
「シュトゥットガルト!」
カタコトでも、ほんの少しだけでも、やはり誰かと話すことは楽しい。
おばあさんと別れて、また歩き出した時、心も体も軽くなっていた。
La chapelle de Rochegude
3kmほど歩いた頃、小さな集落の崖の上に、古いお城の遺構が見えてきた。
鐘のある建物は礼拝堂らしい。
なんともいえない不思議なエネルギーが満ちている。
あそこまで行こう! 私は崖を駆け上った。
・・・中に入ると、静寂。
暗い堂内に立ち込める、祈りの残響。
その心地よさ。
ずっとここにいたいと思った。
13世紀に建てられたという、ロマネスク様式の小さな礼拝堂。
キリスト教が入ってくる以前から、土着の信仰の場所だったのだ。
日本語で「ありがとう」とノートに記し、折り鶴を置いて外へ出る。
・・・あたりは絶景。360度のパノラマ。
昔この峡谷を支配していた城主は、この砦(塔)から敵を一望したのだろう。
今はのどかに、ロバが草をはむ崖の上。
Monistrol-d'Allier
この日の宿はマリーのおすすめ『le repos du pèlerin』。
宿泊者は今夜も私一人だけであった。
洗濯をゆっくり済ませても時間は余るほどあったので、街を散策してまわる。
美しい川。美しい町。
猫にゃあ。
19時。
一人でとる夕食は寂しいけど、それもまた悪くない。
昨日はマリーがいたけど、今日の宿の主人は兼レストランのシェフだ。
食事の支度で忙しいから話す余裕はない。
しばらくすると大人数のファミリーが入ってきて食事を始めた。
夫婦らしいカップルも二組やってきた。
店は一挙ににぎやかになった。
店のおじさんに、明日の巡礼宿の予約を頼んだ。
おじさんは快く電話してくれた。
それから言った。
「マリーから伝言があったよ。君のORIGAMIに感激したって!」
マリー。折り鶴に気付いてくれたんだ!
・・・うれしかった。
おじさんはまた、笑顔で付け加えた。
「明日からサマータイムだ。君の時計を1時間、調節するのを忘れないで」
おお、そうだったサマータイム。
おじさん「君は、明日の朝食は何時にする?」
わたし 「私、朝は食べないんです」
おじさん「じゃあ、ピクニック用のサンドイッチを作ろうか?」
わたし 「あ、はい!・・・ありがとう」
ありがたかった。
人はみんな、やさしいものだ。
そんな当たり前のやさしさに気づけるというのも、旅の効用だ。
静かな夜。
すぐ前が川なので、水の流れる音が聞こえていた。
昨日と同様、満点の星。
この宿も、私一人のために暖房を入れてくれていた。
私の熱は下がらず、体調は悪かったけど、しあわせだった。